新しい日と変わりない日常のため

 ――意識がボンヤリと浮かび上がり、ゆっくりと目を開ける。


 鳥の鳴き声とほんのり赤い日射しが窓からこぼれ落ちているのを感じながら、枕元にある時計を確認する。


 時刻は六時半になる少し前。目覚ましが鳴る様に設定した時間の数分前に今日も起きれた。


 目覚ましよりも早く起きる、そんな習慣を始めたのは何時からだったか、もうすでに忘れてしまった。


 だが自力で、自然に起きる様になると目覚めが気持ち良くなり、何より得した気分になる。


 まぁ元々学校は歩いて行ける距離だから七時に起きても十分に余裕があるのを三十分早く起きてるから、それ以上に早く起きて何をするのかと思われてるだろう。


 ほんの数分だが、かなり有意義に過ごし事ができる。それにこの朝の余裕ある時間が、一日をより安定したものへと支えてくれる。


 軽く近所を散歩しに出掛け、帰ったと同時に郵便受けから新聞を取り出す。そして帰るん最中に買った缶コーヒーを飲みながら大まかなニュースを確認する。


 これが高校に入ってからの習慣、これをすることで清々しい朝を過ごせるのだが…………。



 俺は徐々に覚醒してきた頭で、昨日の事を思い返していた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「えっと狙われてる、ですか?」

「そうだよ」



 三人いるこの部屋で、一切とした物音もなく。耳にはシーンと言う音が染み渡ってくる。



「誰が?」

「君が」 

「ホントに?」

「ホントに、だって今さら嘘を付く必要もないだろ? ここまできて」



 確かにここでそんか嘘を付く必要もないし、場を盛り上げるにしてもセンスが無さすぎる。


 だが待って、色々待って欲しい。この短時間では処理できない程の情報が飛び交い過ぎて何か分からなくなってきた。


 一度整理しよう、じゃないとまた新しい説明が始まりそうで、これ以上話題が増えると処理落ちする。そこまで高性能じゃないから俺の頭は。



 えっとまず最初に、この世の中には異能力を持った人間がいる。能力は様々な種類があって、人によって全く性質が異なる。


 次に、俺が追ってた犯人は異能力で作った分身で、それを俺は見る事ができた。だから俺も何かしらの能力があるはずだ、と。  


 で、今度は追加で俺がその犯人に狙われるかも知れないと……。



 ヤバい、整理したつもりが全然理解出来ない。何がどう飛んだら狙われるなんて話になったの!? 



「ハハハ、凄い顔になってるよ麻桐くん。ちゃんと説明はするから大丈夫だよ」



 エラく呑気に笑っているが、これ以上何か言われても理解する自信がない。あと能力を説明する時の方が難しい顔してた様な気がするのは勘違いか? 


 俺のそんな疑念も露知らず、狭間さんはマイペースに話続ける。



「今回の相手なんだけど、かなり粘着質なヤツでね。実は前にさっき言った一度だけ追い詰めた事があるのだよ」



 狭間さん曰く、その対峙した時は俺の様に偶然直面したらしく、同じ様に引ったくりをしていたらしい。


 その場ではすぐに片が付いた。戦闘技術はこっちの方が高かったらしい。


 しかし問題はここからだった。


 その日を境に、どこからともなく彼の目の前に現れ襲い始めたらしい。


 当然だが実力差などは一回目の戦闘で歴然となり、分かっているはずだ。なのに毎日の様に現れ、背後から襲いかかってくるらしい。


 今この場にいないのも、毎日襲われて疲れたから眠りこけていたらしい。



「そんな訳で、相手はかなり執念深いヤツなのは確かだ。そして君はまだ何の能力か分かっていないから対応する術を持っていないだろ?」

「だから……、護衛を?」

「その通り、もちろんプライベートな部分は保証する。顔は割れてるかも知れないが家まで調べる能力はさすがに向こうには無いだろから、外を出歩く時だけ見守らせてもらうよ」



 まぁ、外に出かけると言っても休みの日に出歩く予定はない。せいぜい今週は学校に行くだけで他に行く場所もない。


 別にすぐにでも首を立てには振れた。だが、ほんの少し気になる事がある。ほんの些細な疑問だった。



「あの……、狭間さん達はどうしとこういう事を、その犯人を追ったり、俺を護衛などしようとするのですか?」



 ちょっとした好奇心だ、答えてくれなくても良いとも思ってた。そもそも護衛しても良いかの答えとしたら、まったく見当違いだ。



「理由? 特には無いけど、そうだね……なんでだろうね」



 屈託の無い顔で少し困った様に笑うその姿を見て、俺は何か理解できた。そして本当に理由が分かっていないのだと思う。


 どう言えば的確に今の気持ちを表す事が出来るかは見つからないが、信用は間違いなく出来ると、その場で確信できた――



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ――そう、信用はしたのだ。間違いなく好い人だ、それを理解するのには十分だった。


 だがこうして一晩過ごしてから考えると、今日から何か大切なものが変わってしまうのではないかと不安になってきた。


 あの能力、黒い存在。今まで俺の人生とは関わるはずがなかったものが突如として現れてきたのだ。


 そして突然、自分がそうだと言われても……。


 俺は自分の掌を広げ、ジッと見つめる。もちろん何か変わった訳でもない。今まで感じなかった事が、急にできる訳がない。


 今までの日常が壊れるかも知れない。いやそれよりも、俺のせいであの人達がもし大怪我を負ってしまうかも知れない。そっちの方が重大だ。


 もし怪我を追ったなら俺の責任だ、ずっと頼ってばかりでは居られない。


 だがどうすれば良いのだ、俺一人で解決出来れば良いのだが……。



 底知れぬ不安と自己嫌悪を抱えながらキッチンへと降りる。


 どこからか狙われてる今、人が閑散とした時間に出歩くのはよそう。少しでも日常に近づける為に散歩は行きたいがしょうがない。


 散歩は行けないが、コーヒーはインスタントが有ったはずだ。せめてそれで、日常を送れていると言う気分を味わいたくなった。

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BREAK FREE 坂口航 @K1a3r13f3b4h3k7d2k3d2

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