第2話 異世界ウオッチ

 着替えを済ませ、ゲートを潜ると、そこは異世界の街の中だった。


 だが、アイリスにとってははじめは違和感しかなかった。


(殆どの異世界転生モノは、森や泉、洞窟の中からはじまるんだけど……。)


 前を歩いているのに急に立ち止まってしまい、そのお尻にエルフが突っ込む。


「いたっ! ちょっと、何ぼーっとしてるのよ」

「あぁ、ごめんなさい! 余りにも、似ているもので……。」


「あん?」

「ま、中世のヨーロッパの街並みっしょ!」

「そういえば、アイリスの祖国ジェスワッサー王国って、ヨーロッパの……。」


「いいえ、そうではなく『異世界ウオッチ』の冒頭に描かれている街並みです」


 『異世界ウオッチ』とは、世界三大◻︎◻︎という作家が書いたライトノベル。


 チートなしで異世界に転移した主人公が腕時計だけで乗り切るというものだ。


 書籍化されたが、シリーズ累計で200部しか売れず、完結前に打ち切られている。




 だから、どのような結末を迎えるのか、誰も知らない。


 アイリスは、そんな売れない小説にさえ触手を伸ばしていた。


「ははは。それは面白い。主人公はこのあとどうするんだろう!」

「喧嘩します。それで仲間割れするんです」

「白と赤に別れるってこと!」


 別れた主人公達はそれぞれの旅をしていくうちに、何度か巡り会う。


 だが結局もの別れになり、やがてはそれぞれが相手をライバル視するようになる。


 1巻では『はじまりの街』での喧嘩の様子が描かれている。


 2巻では『大きな砂漠』、3巻では『闇の草原』での行動。




「そして、『救国のパレード』で再会したところで、打ち切られました……。」

「じゃあ、パレードの続きは『異世界ウオッチ』のラストシーン!」




 太一達御一行に戦慄が走る。




 物語の再現と誰も知らない結末。


 パレードにまつわる都市伝説が結びつく。




 そんな中、あおいが耐えきれなくなって口を挟む。


「ばっかばかしい! そんなのありえない!」

「そうですね。ぺちゃんこのエルフには解せないことでしょうね!」


「ぺちゃんこですって! なっ、何よ! このホルスタウロス!」

「ホルスタウロスではありません。ミノタウロスです!」


「おっぱいの大きい牛なんて、ホルスタインに決まってるでしょう!」

「だとしても、まな板に言われる筋合いはありません!」


 こうして、あおい扮するエルフとアイリス扮するミノタウロスは大喧嘩となった。


 優姫が仲裁に入るも、不調。


 結局、白と赤に別れて行動することになった。


 それはまるで、『異世界ウオッチ』の冒頭のようだった。

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