第3話 ランキング

 レッドチームの4人は、雑談していた。


入り口から1番近くにあるアトラクション『はじまりの森』を利用するためだ。


「ったく! あったまくるわ!」

「まあまあ。あおいもホルスタインとか言ってたし」


「最初にぺちゃんことか言ってきたのはアイツでしょう!」


 まだ怒りのおさまらないあおいを、珍しくまりえがなだめる。


 仲裁が不調に終わった優姫には、アイリスには何か考えがあるように思えた。


「もしかすると、アイリスはわざとあおいを挑発したのかもしれません」




 根拠は3つある。


 1つ目はアイリスが『異世界ウオッチ』を読んでいること。


 2つ目はアイリスが冒頭で喧嘩別れすると言っていたこと。




 そして、3つ目は腕時計型の端末だ。


 特にこの端末は、心拍数などの心身情報を計測、記録、送信することができる。


 喧嘩をしたときの心拍数の変化は記録されているに違いない。


 その数値がパレードに招待される条件に含まれるかもしれない。




 そうすれば、誰も知らない物語の結末くらいは教えてもらえるに違いない。


 さすがに異世界に転移できるとは誰も思わなかったが。




 アイリスがそう考えていたとしても不思議ではないと、優姫は思っていた。


「だったら、余計に腹が立つわ!」

「どうしてさ……。あ!」


「『なまだしあ』様を舐めんなってことよ!」

「おーお、伝説の天才子役!」


 あおいは『なまだしあ』という名で子役をしていた。


 演技力は抜群で、迫真の演技はお手のものである。


 演技によって心拍数を上下させることさえできるのだ。




「アイリスにも、同じ能力があるとは考えられません」

「じゃあ優姫は、アイリスが自分の心拍数を上げるために……。」

「……わざと私に悪口を言わせたってこと?」

「おーっ! アイリス、頭良ーね!」


 こうして、レッドチームの4人は、あとでアイリスに真相を聞こうということになった。




 『はじまりの森』はライディングアトラクションだ。


 龍に見立てた乗り物を使い、敵を撃ち落とす。




 太一達にいよいよ順番が回ってきた。


 そんなときに腕時計のアラームが鳴る。


 アプリを通して重要な情報が伝達されたことを意味している。


 太一は、それを見て目を疑った。


「ランキング1位は、アイリス達だ!」

「すごーい!」

「やはり『東京異世界ランド』は、『異世界ウオッチ』と関係があるのかしら」

「うーん。喧嘩したのがポイントを挙げてるなら、私達だって……。」


 情報によると、アイリス達は入園後の行動記録の得点において、過去最高を更新した。


 一方の太一達は1万2425パーティー中307位だった。悪い数字ではない。




 アラームが鳴る少し前。


 アイリス達がいたのは『はじまりの森』から少し離れたところの『レベル上げ道場』。


 お土産用のクレーンゲームが並ぶ。


 アイリスは、コミカルな4本脚のコスチュームを着たまま、深刻そうに言った。


「ごめんなさい。みんなを巻き込んでしまって……。」

「もう。どうせならマスターと回りたかったのに!」

「ま、なんか訳ありって感じっしょ!」

「そうよ、アイリス。あなたらしくないもの」


 つい本音を漏らすしいか。


 他の2人はアイリスを気遣った。


 アイリスは喧嘩を吹っかけたのは、物語に忠実に行動するためだったことを打ち明けた。


「なんだ。そういうことなら、仕方ないわ……。」

「ま、ガチャ回したときから、こうなる運命だったってことっしょ」

「どこかでマスター達に会ったら、事情を説明しましょうね」


 充分なレベル上げをしたホワイトチーム。折り返して『はじまりの森』に向かった。


 列に並んだときに順位の情報を受信し、小躍りするほど盛り上がった。




 だが、太一達に会うことはなかった。

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