第11話 『エルディアブロ』
いらっしゃいませ。
ええ、蒸し暑い日が続きますね。こうジトッとしてては……
それでは本日は酸味が程よくきいていて、さわやかな喉ごしが味わえるカクテルをお出ししましょうか。
今宵のカクテルは
『エルディアブロ』
テキーラ 45ml
クレーム・ド・カシス 15ml
レモンジュース(ライムジュース) 10ml
ジンジャエール 適量
テキーラ、クレーム・ド・カシス、レモンジュース(ライムジュース)を氷を入れたタンブラーに注ぎ、かき混ぜジンジャエールで満たします。くし形に切ったレモンやチェリーを添えた方が見た目は美しいです。
見た目は赤で、その毒々しい色からスペイン語で『悪魔』と名付けられたカクテルになります。
ではカクテルと一緒に、今宵は珍しくホラーなお話でも
※※※※
「ねぇマスター。私、どこか変わったと思う? 」
声を掛けてきたのは30歳手前の国際線のキャビンアテンダントで、佇まいやグラスを傾ける仕草、会話から聡明さが伺える清楚な美貌の女性であった。
マスターは黙って首を横に振った。
女は自分の頬や顎に手を当てた。
「ほ 本当に? 」
マスターは黙って今度は頷いた。
「私の事がバレるから、誰にも言ってないけど……今から話すことは絶対に内緒よ」
女は長くなるけど。と前置きを入れると、恐る恐る口を開いた。
「あれは私が国際線のフライトを終えて、自宅の高層マンションに帰って来た日である。私のマンションは日本でも指折りの高層マンションで51階建て何だけど、そんなマンションにも関わらずその日はエントランスの灯りが消えていたの。薄暗い中を抜けてエレベーターに乗ろうとすると、ぎぃ~ぃ。と普段なら絶対に鳴らない音をしながら扉が開いて、変だな~変だな~。と思いながらも乗り込むと……」
女は喉が渇いたのかグラスに口を付けた。
「扉のガラスには私何だけど、何かいつもと違う私が映ってたの。取りあえず部屋のある37階を押したのよ。そしたら上から空気が
女は自分を両手で抱き締めながらも暫く話し続け、マスターはグラスを丁寧に磨ぐのに集中しているようだった。
「…………表示を見ると47 48 49と上昇していって、え? 何で止まらないの? って思いながらも体は震えてくるし汗は出てくるし、嫌だ! 降りたい。と、思っても恐怖で体がいうことをきかないし………やだな~ やだな~ やだな~ 思ってたら、私の願いも空しく、止まる気配はなく50 51 ……そして遂に52!『え?』と思い目の前が真っ暗になったわ。だって 51までしかなかったのよ。そして最終的には55を表示したの……」
女は頭を横に振り頭を抱えるとマスターを見上げた。
「マスター ちゃんと聞いている? こっちは今も生きてる気がしないんだから! 」
マスターはグラス磨きを終わらせたのか、女に苦笑いを見せながら振り向いた。
「その日から私は私じゃなくなったのよ……体重計で表示された私に取っての悪魔の数字を見てからね。エレベーターのガラスに映った私は、少しふっくらしてた気がしたのよね……」
女は苦悶の表情をマスターに向け吐き捨てる様に呟いた。
「CAとして自己管理が足りないと言われ、制服のサイズも1つ上げないとキツイわ。海外にも美味しいものが沢山あるのがいけないのよ! 」
※※※※
え? 途中の話が抜けてないか? そうですね。グラス磨きに夢中になってしまい、私も途中は聞いてなかったのですよ。
今までは51キロが最高体重みたいでしたが一気に4キロは女性からしたら恐怖でしかなかったのでしょうね。身長も160中盤位はありそうな女性ですから、気にする必要もないと思いますがCAのプライドですかね。
『エルディアブロ』
カクテル言葉は
『気を付けて』
悪魔の名前を持ちますがジュースの様に飲みやすいカクテルになります。
えぇ、そのお客様も自戒を込めたのか、このカクテルを飲んでらっしゃいましたよ。
あっ エレベーターの音は、たんにファンの調子が悪かったみたいで、後日にメンテナンスで治ったとの事。
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