第3話 『ハンター』
いらっしゃいませ。
おや、来られるのは3度目になりますね。すっかり常連さんの仲間入りですよ。
また私の小話とカクテルを味わいたいと? 貴方も欲しがりですね。まぁ、良いでしょう。私も喋るのは好きなので、今から話の中に出てくる名前は仮名に致しましょうか。
では今宵のカクテルは
『ハンター』
ライ・ウィスキー:45ml
チェリーブランデー:15ml
簡単なレシピで作れるカクテルになります。ウイスキーとチェリーブランデーの調和した、少し甘く優しい味わいのカクテルです。
※※※
「でさぁ ユリと高校卒業してから2年ぶりに会ったのよ。そしたら、あんたとトモカが付き合ってるって聞いてビックリして……」
カウンター席では若い男女が楽しそうに飲んでいた。
「ユリのやつ口が軽いなぁ。3ヶ月前からトモカとは付き合ってんだよ」
「あんた、あたしに惚れてたのに、あたしが東京を出ると、他の女に行くんだ」
女は笑いながら肘で男の腕を小突いた。
「いや1年以上はお前の事しか考えてなかったよ。でも3ヶ月前くらいにトモカの恋愛相談に乗ってたら、トモカと付き合う事になっちった」
「まぁ 申し訳ないけど、あたしはあんたの事を何とも思ってないから、誰と付き合おうがどうでも良いけど」
男は勝ち誇った様な顔を女に向けた。
「だろうな。俺も今はトモカ一筋だから! 」
「言ってくれるね。トモカは前彼の事が好き過ぎてたから、まさか別れるなんて思ってもなかったけど」
「今はトモカも俺一筋だろうな」
女は邪心の欠片もない微笑みを男に向けた。
「それだけ仲良かったらトモカも妊娠するよ」
その言葉に男の表情が一気に曇った。
「え? 今 何て言った? 」
「え? もしかして、あんたトモカから聞いてないの? あちゃ~ トモカは何をしてんのさ」
女の後半は一人言の様な呟きに変わっていたが、男の耳には入ってなかったのか呆然としている。
「トモカがユリに妊娠した。って打ち明けて、私もユリ伝手に聞いたんだよ。あんたさ、責任とって覚悟を決めなよ」
男は拳をカウンターテーブルにに叩き付けた。
「ちょっと。トモカが黙ってるのは悪いに決まってるけど、あんたに言い出せない状況をあんた自身が作ってたんじゃないの?」
男は女の話を聞いていないのか頭を両手でクシャクシャとかき乱した。
「妊娠二ヶ月って言ってたらしいけど、あんたは何も気付かなかったわけ? すぐに連絡して話し合いなさい! 」
男は充血した赤い目で女を見るとボソッとつぶやいた。
「俺は童貞だ……」
※※※
これは少々ヘビーな話になってしまいましたね。
後日談ですが、またお店に2人が来られた際に仰っていたのは、男性は彼女と別れて、彼女は前彼とよりを戻したとの事。
そうですね『ハンター』はシンプルに『狩人』と言う意味ではなく、『都会の夜を狩る』と言う意味になります。
別れた彼女がハンターだったのでしょう。
このカクテルの少し甘く優しい味わいとは裏腹に深紅の色は危険な夜を感じさせますね。
『ハンター』
カクテル言葉は
『予期せぬ出来事』
一番悲しく切ない『童貞』をカミングアウトされた方も『予期せぬ出来事』だったでしょうね。
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