第10話 ほんの幾日の物語
心は、感情を使命を意思を人に与える。
心が抜け落ちたアラタだったそれは、無意識の中にいた。我を失ったからだ。
これからアラタは再形成される。別の自我が生まれ使命も願いも果たさない、ただ生きるだけの生き物に変わる。
その生き物にカグヤは興味がない。
アラタを置いて立ち去ろうとする火の玉に声が掛かった。
「待てよ、カグヤ」
聞こえる筈のない声に驚き、振り替えると瞳の奥に火を写したアラタがそこに立っていた。
*
自我を形成するに当たって意識は記憶を遡った。
半年も満たない人生が脳裏に蘇る。
『お前が騙されているからだ』
悲痛な竜の声
『自分が何者なのか決めておけ』
珍奇な人形の声
『ふふ、お子ちゃまねぇ』
優しい吸血鬼の声
『忘れないで、アラタは一人じゃない』
妖魔界の山猫の声
『この星を守るっている大切な使命がある。オーケー?』
聖霊の声
そして――
『ダメよ。地表人が私達を殺すと決めたなら受け入れる、でしょ?』
『うん。でもこれは地表人じゃなくて異界人の仕業だと思うんだ。きっと地表人はこんなこと望んじゃいないよ。だからせめて、皆を救えるような守護者を、心を持つ守護者を作りたいんだ』
『人間を作るの?』
『うん。きっと今いる六体の守護者じゃ無理だと思う。やっぱりダメかな?』
『……ま、一理あるかしらね。一人だけならいいわよ』
『やった!』
始まりの声がした
火の玉の言葉に使命を思い出した。妖怪達の姿に感謝を思い出した。少女との会話に優しさを思い出した。人形の問いに覚悟を思い出した。竜との約束に意思を思い出した。
その胸に、感情が使命が意思が生じた。
そうして心は満たされた。
こちらを凝視するカグヤに言った。
「ありがとう。お前のおかげで戻ってこれたよ」
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