第10話 ほんの幾日の物語

 心は、感情を使命を意思を人に与える。

 心が抜け落ちたアラタだったそれは、無意識の中にいた。我を失ったからだ。


 これからアラタは再形成される。別の自我が生まれ使命も願いも果たさない、ただ生きるだけの生き物に変わる。


 その生き物にカグヤは興味がない。

 アラタを置いて立ち去ろうとする火の玉に声が掛かった。


「待てよ、カグヤ」


 聞こえる筈のない声に驚き、振り替えると瞳の奥に火を写したアラタがそこに立っていた。





 自我を形成するに当たって意識は記憶を遡った。

 半年も満たない人生が脳裏に蘇る。


『お前が騙されているからだ』

 悲痛な竜の声


『自分が何者なのか決めておけ』

 珍奇な人形の声


『ふふ、お子ちゃまねぇ』

 優しい吸血鬼の声


『忘れないで、アラタは一人じゃない』

 妖魔界の山猫の声


『この星を守るっている大切な使命がある。オーケー?』

 聖霊の声


 そして――


『ダメよ。地表人が私達を殺すと決めたなら受け入れる、でしょ?』


『うん。でもこれは地表人じゃなくて異界人の仕業だと思うんだ。きっと地表人はこんなこと望んじゃいないよ。だからせめて、皆を救えるような守護者を、心を持つ守護者を作りたいんだ』


『人間を作るの?』


『うん。きっと今いる六体の守護者じゃ無理だと思う。やっぱりダメかな?』


『……ま、一理あるかしらね。一人だけならいいわよ』


『やった!』


 始まりの声がした


 火の玉の言葉に使命を思い出した。妖怪達の姿に感謝を思い出した。少女との会話に優しさを思い出した。人形の問いに覚悟を思い出した。竜との約束に意思を思い出した。

 その胸に、感情が使命が意思が生じた。


 そうして心は満たされた。


 こちらを凝視するカグヤに言った。


「ありがとう。お前のおかげで戻ってこれたよ」

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