第4話 吸血鬼の館


 気が付くとベッドに横たわっていた。

 羊達と一緒に眠た時より寝心地がいい。


「あれ……?」


 服が変わっていた。細かく言えば服というより、着れるよう細工のされた布だ。誰かに着替えさせられたと思うと顔が熱くなった。気持ちが落ち着くと、起き上がる。


 洋風の綺麗な部屋だった。

 窓から外を見ると、もう夜になっていた。長いこと眠っていたようだ。


 個室を出て廊下を渡ると話声の聞こえる部屋を見つけた。


「色々と助かったよ。ありがとう、吸血鬼さん」


 カグヤと何者かが話していて、カグヤが吸血鬼と言ったように聞こえた。

 

 カグヤは向かい合う少女に向けてその言葉を発した。知識にある吸血鬼で間違っていないのであれば、人を食べ、アンデッドを支配し、不老不死でもあるのが吸血鬼だ。まさしくアラタの、人間の敵である。


 混乱する頭で続きを聞いた。


「いい加減、種族名で呼ぶのはやめなさい。名乗ったでしょう?」


「分かったよ、レティシアさん」


「ん。……それにしても、聖霊なんて初めて見たわ。実在したのね」


「こっちの世界だからこそ、って言うのもあるんだけどね」


「へぇ……」


 その時、彼女の赤い瞳がこちらを捉え、小さな口で微笑んだ。それが善意の微笑みなのか、悪意の微笑みなのか分からなかった。彼女がカグヤと普通に会話していても、その普通がアラタにも適用される保証はないのだ。


「それで、あなたの相方が来たみたいだけど?」


「あ、アラタ! 目が覚めたか、良かった!」


 カグヤが駆け寄った。「えっと……」何を言ったらいいのか、分からなくなってしまった。


「ああ、大丈夫さ。彼女はレティシアさん。この館に一人で住んでる変わった吸血鬼で、僕らを救ってくれた人でもあるんだ」


 レティシアは目配せしてカグヤの言葉に大方同意を示した。しかし、なにか気に入らない所があるのか、不満顔だ。


「別に一人じゃないわよ。ほら」


 彼女の視線の先、すなわち背後。「うわっ!」そこには執事服を着たゾンビがいた。


「うふふ、驚かせちゃってごめんね。その子は私の召使いだから安心して」


 ゾンビ執事の邪魔にならないようアラタは広間へ入室した。その瞬間にアラタの運命は決した。もう引き返す事はできない。


 吸血鬼による、おもてなしが開始された。


 レティシアにうながされるまま料理を振る舞われ、風呂を堪能し、レティシアと一緒にテレビゲームに興じ、柔らかいベッドで眠りについたのだった。

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