シューマン【森の情景】より【なつかしい風景】
私は早足になった。
高くしていたランタンを少し下げ、踏み固められている歩きやすい道を、その先に吸い込まれるように足早に行く。
嬉しくて仕方なかった。
チラホラと人工的な気配が置かれたその道の先に宿があるに違いないのだから。
どんな獣が出るかも分からない森での野宿は避けられたのだ。
──正直にいうと恐ろしかったのは獣というより、いや、獣だって恐ろしいに違いはなく、熊なんか居た日には、それでも、まぁ、より大きかったのは、なんというか。
私はそう誰に向かうでもない言い訳を頭の中に回しながら、遂にレンガで舗装された道に出会して歓喜した。
声が出そうになったが、そんなのをこの先に居るはずの人々に聞かれて不審者と思われ宿泊拒否だけはされたくない。
私は思わず口角の上がっている口を閉じ、道の先だけを目指した。
もうすっかり日は沈み切っていて、私は今日初めて入ったばかりの夜の森にいたのだが。
森の中、目の前に現れた小屋がなんだかとても〝なつかしい風景〟に思えた。
人が居る、という確証がなつかしかったのかも知れない。
窓から溢れ出る明かりは、私が手にするランタンの火と比較にならない。
まるで都会の中心を歩いている気分だった。
私は少し弾む息を整えようとしたが、足が早いままではなかなかどうも上手くいかなかった。
それでも私は自分の身なりを少し気にする。
やっと辿り着いたここで何かの気に障り孤独に追い出される事だけは避けたかったのだ。
そして私は、目の前の扉を開ける。
カランカランと穏やかな音と共に、私の身は暖かさと光に包まれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます