第43話 ラタからの侵入者
それからしばらくして、ヴィアラントからの侵入者が一人、結界に掛かってバラルダで捕まったとの報を受けた。
「ラタの街の人間らしいわ。詳しい話は分からないけど、私と師匠を呼べと言ってるみたい」
その連絡を受けた美由は神妙な様子で俺にそう告げた。
「美由と俺のことを知ってるとなると、ミカゲ様の信頼を得た側近あたりかな。彼はアイネルの人間と交流していることなんて、そうそう自分から言わないだろうし。……ミカゲ様に何かあったのかな」
「その可能性は高いわね。どうする? バラルダに行ってみる?」
「もちろん、行こう。もしミカゲ様が困っているなら助けなくちゃ」
領主や王子と違って、すぐに動けるのが俺たちの強みだ。
ダンに断りを入れると、俺たちは僅かなお供だけを連れて、バラルダへと向かった。
バラルダに着いた俺たちは、ロバートに出迎えられた。
ギースはまだオルタにいるらしい。代わりにジョゼが一度ここに来たらしいが、彼もまたオルタに戻ったという。
「お二人が来たら、牢に入っている者に会わせるようにと申しつかっております。どうぞこちらに」
「ありがとう、ロバートさん。……ここから先は人払いをしてもらっていいかしら? 詳しいことは、後で私たちが直接ギース兄様とジョゼに報告するわ。陛下への報告はジョゼがするだろうし」
「かしこまりました。では、向こうの扉の外に使用人を置きますので、何かあったらその者にお申し付け下さい」
そう言うとロバートは一つお辞儀をして、牢から屋敷に通じる廊下を戻っていった。
屋敷にあるのは、牢と言っても泥棒や殺人者を入れるようなものではない。特にバラルダはヴィアラントからの逃亡者が捕まりやすいので、処遇が決まるまでの収容施設のようなものなのだ。
もちろん自由に動き回ることはできないが、十分人権を尊重した作りになっている。
その牢の一番奥の部屋に、件の人物はいた。
何だか思っていたのとかなり違う。
歳の頃は十代後半。ショートカットに眼鏡の女の子だ。その格好は……この世界にそぐわない、日本の……。
「ま、舞ちゃん!?」
「あー! 美由ちゃん!」
隣で美由が驚きの声を上げた。
「……美由、知り合いか? 彼女、明らかに向こうの子だよな」
「あ、うん。日本での高校時代の友達で……よく趣味で描いてた薄い本を見せられてたのよね……。ええと、舞ちゃん、どうしてここに? ラタから来たのよね?」
「そう。両親と海外旅行中にいきなりこの世界に落っこちちゃって……。ラタの街の近くにいるところを拾われたの」
「アイネル以外の不確定なゲートからこっちに来たのか。ラタで拾われたのは幸運だったな。……美由と俺を呼んでいたと聞いたが、君はミカゲ様の指示でここへ?」
俺が訊ねると、彼女は一度ぱちりと目を瞬いた。
それから、上から下まで舐めるように俺を眺める。
「……あなたが巧斗さん? ほほう……あの人が歳上っていうからおっさんだと思っていたけど、これはなかなかの美人……」
「舞ちゃん、そういうのは後にして。あなたが一人で来たってことは、ミカゲ様に何かあったんでしょ?」
「あ、そうそう、そうなの! ミカゲ様のお兄さんが王国軍を大勢つれて街に押し寄せてきて……。ミカゲ様が捕まる前に、巻き込まないようにって私だけ街から逃がしてくれたのよ。アイネルに行って二人を頼れって。美由ちゃんの名前が出たのは驚きだったわ。それも名前が同じだけかと思ったら、本人だとは」
「ちょっと待て、ミカゲ様が捕まった!? 近臣たちはどうした? 街は?」
「ミカゲ様の臣下もみんな捕まったわ。街は一応無事だけど、王国軍に占拠されてる。最初に街が軍に抑えられちゃって、住民を人質に取られちゃったの」
「物資を得るために強硬手段に出たわけね……。ミカゲ様とその部下も収監したとなると、よほど形振り構っていられない状況のようだわ。国民の不満は爆発寸前、そこで唯一の希望であるミカゲ様を捕まえれば、国民の不満は一気に怒りへと転化する。それでもミカゲ様の命運を握っていることで、ぎりぎり国民を牽制するつもりなのね」
「それだけヴィアラント王はミカゲ様の存在を恐れているんだろう。……まあ、ヴィアラント王はこれで逆に自分を追い詰め、ミカゲ様を殺すことはできなくなったわけだが……、良い状況ではないな」
ミカゲが兄王の元にいる限り、楽観はできない。
ヴィアラント王は感情に振り回されやすい人間のようだし、プライドが高く選民思考を持っている。国民が暴動を起こせば、自身の顛末などにも思い至らず、見せしめにミカゲを殺すことだってあり得るのだ。
「舞ちゃん、ミカゲ様から何か私たちに言付けられたことはない?」
「ミカゲ様から美由ちゃんたちにはなかったけど」
「……けど?」
「逃げる直前に、ミカゲ様の部下のヘルマンさんからこっそり手紙を託されたわ。ジョゼっていう人に渡してって。二日前に本人がここに来たからもう渡しちゃった」
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