第42話 ミカゲの来訪

※ジョゼ&ギース×巧斗の取引はカクヨム版では端折らせていただきます。

 以下、取引終了で滞りを解消した巧斗のお話からどうぞ。


**********


 何とも複雑だが、アレ以来、俺の体調はすこぶる良い。

 身体が軽く、どこか若返った感じすらする。


 サラントに戻ってからは適度に自慰をすれば十分。最初の解消には酷く恥ずかしい思いをしたが、今はあれはあれで必要だったのだと割り切っていた。

 ただ自慰をする時に、ついつい脳裏に浮かぶのがあの二人との行為なのが、困ったと言えば困ったことなのだが。


 次に会った時にどんな顔をすればいいのかと思うけれど、きっとあの二人は全く態度が変わらないんだろうと想像がつくから、まあ、俺もあんまり気にすまい。






「師匠、『女神の加護』解放してから何だか若返ったよね。肌もつやつやで美人になったし、フローラルな匂いがするし」


 街の見回りをしていると、一緒に歩いていた美由が俺の匂いをくんくんと嗅いできた。その変化が自分では分からないが、この体調の変わりようからも、何かしら解放の影響があったことは確かだろう。


「ジョゼは『女神の加護』を制御するために関連するホルモンが制限されてたって言ってたし、その関係かな。体調はすごく良いよ」

「だったらまあ、いいわ。師匠の能力も上がったみたいだし。……解放された時は手に負えないと思うくらいすごいフェロモンで、事と次第によってはジョゼをボコボコにしてやろうかと思ったけど。あの後、無事に治まって良かったわね」

「そ、そう、だな……」


 当然だが、あの後どうやって解消したかなんて、美由には言ってない。今思えば、彼女を先に外に出したのは正解だった。あんなところに途中で入って来られたら、俺はきっとその場で軽く死ねる。


「そういえばジョゼとギース兄様は、あれからまだオルタに留まっているらしいわ。ヴィアラントの斥候を一人捕まえたとかで、次の襲来に備えているみたい」

「また攻めてくる気なのか。国内を顧みず、よくもまあ……。いや、国内がボロボロだからこそ、焦っているのかな」

「上位貴族が攻めてくることを考えれば、焦っているんでしょうね。もう中下位の貴族すら十分な待遇が得られずに、権威が弱まっているようだし」


 会話をしながら街の外れの農場にさしかかる。

 ここにくるとしばしの休憩を取るのが常になっていた。黒猫のミカゲが現れるかもしれないからだ。

 俺と美由は農場の片隅にある切り株に腰掛けて話を続けた。


「敵の侵攻があったら、また俺と美由が招集されるのは間違いないだろうな。まあ、アイネル王や他の領主が物資面では支援してくれるから、特に問題はないけど……。でもある程度オルタに置いているヴィアラント兵がまとまったら、大将になる人物が欲しいよな」

「そうね。中規模の戦闘のたびに大将として殿下に出向いてもらうのも一苦労だし、ヴィアラント兵が心からアイネルの王子に従うのは難しいわ。そう考えるとやっぱり、ミカゲ様に蜂起して欲しいわね」

「……それを本人には言えないけどな。俺はやっぱりミカゲ様とは友人でいたいから、国の思惑で動いてもらおうとは思わない。手伝えることがあるなら、もちろん喜んでするけど」

「うん。師匠はそのスタンスで良いと思う。その方がミカゲ様も精神的に楽だろうし。国の関係のことは私に任せて」


 そう請け合う美由は本当に頼もしい。

 まだ18歳でありながら、すでに国の重鎮と対等に渡り合えるし、物怖じせず、清廉で芯が強い。

 この子はひとかどの人物になるだろうと思って育てていたけれど、よくここまで成長してくれたものだ。


 彼女を守ろうと近衛兵になったのに、今や正直、俺の方が守られている。すでに剣の腕は美由の方が上だし、『神の御印』も相俟って戦場では断然彼女の方が有能だ。

 今後、能力的にも俺はこの間の防衛砦での戦のように後衛に回るのかと思うと、少し寂しい。


 そんなことを考えていると、不意に美由が近くの茂みに目を向けた。すぐに俺もその気配に感付く。ミカゲの黒猫の気配だ。

 離れたところから、こちらに向かって茂みが揺れてくる。

 ほどなくして、ミカゲ……ミーちゃんが姿を現した。


「こんにちは、ミーちゃん」


 挨拶をすると、彼もぺこりと頭を下げた。


「ああ、こんにちは。少し久しぶりだな。……先日ヴィアラントの一軍がアイネルに攻め込んだと聞いた。……迷惑を掛けているようですまない」

「ミカゲ様は相変わらず真面目ねえ。いいのよ、あなたのせいじゃないのは分かってるし」


 美由は肩を竦めて苦笑する。


「国同士のいざこざは関係なく俺はミーちゃんの友達だからな。会いに来てくれて嬉しいよ」


 俺も笑って彼に近づくと、屈んでその頭を撫でた。

 すると何故かミカゲがすんすんと鼻を鳴らす。


「……巧斗殿、匂いが変わったのか……? 何だか、前よりも……」

「あ、ミカゲ様も分かる? 師匠、すっごい良い匂いよね。以前も甘くて良い匂いだったけど、さらに魅惑的というか、ちょっと私でもくらくらくる匂いになってるの」

「ああ、とても良い匂いで……少し、刺激が強いな……」

「え? 俺、何か刺激臭がしてる?」

「師匠、そういうことじゃないと思うよ。……ま、いいか。ミカゲ様、今日も早速街中を見ていきます?」


 訊ねた美由に、黒猫は首を振った。


「いや、今回は君たちが無事かどうかを確認に来ただけなんだ。……美由殿の『神の御印』はヴィアラントでも知られている。だから先の戦で、君が狙われたのではないかと思っていたのでな」

「そうなの? 全然問題なかったけど」

「ならいい。ただ、これからも気を付けてくれ。私は王城で何が企まれているか分からないから忠告しかできないが、友人である君たちには傷付いて欲しくない」


「それを言うなら、私たちも友人として少し心配なんだけど……。ミカゲ様の街は物資を吸い上げられたり、徴兵されたりしてないの? あまり周りの状況良くないでしょ?」

「……確かに私たちを取り巻く状況は良くはない。だが、街の住民は結束している。兄上も私の領地の人間を徴兵するのは得策ではないと分かっているだろう。王城は今までラタを完全に無視してきたし、それで今更命令を出されたところで、誰も聞きはしない」

「……うーん、それは逆に心配だな……。ラタはミーちゃんのおかげでヴィアラント国内でも特に豊かな街だろうし、アイネルより先にそこが略奪されてもおかしくないよ。王城の命令に従わないとなると、あなたが反逆者として捕らわれる可能性もある」


 そう考えると、今この瞬間にヴィアラント軍がラタに押し寄せても不思議はない。

 ここでミカゲがヴィアラント王に対して蜂起するというのなら、俺たちは国を挙げてサポートするのだけれど。それを決めるのは彼だ。

 そんな提案はきっと彼の部下がしているはずで、ミカゲも重々分かっているはず。それでもミカゲが踏み切れないのは、何か思うところがあるからだ。

 だったら俺は友人として、彼の気持ちを尊重したいと思う。


「……くれぐれも、用心しろよ?」

「ああ、分かってる」


 そう言うだけに止めて、俺は再び黒猫の頭を撫でた。

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