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私は舞の家へと走った。
舞の家は、学校から歩いて登校出来る程度の距離しか離れていない。そして私の家とも近い。
しかし、向かっている最中に舞が今日休んだ理由は、風邪だということを思い出した。具合によっては連れ出すのは控えなければならない。もしもそうなったら、仕方のないことだけれどなんとも歯がゆい。
舞の家にはすぐに着けたけど息が切れ、服は汗でぐっしょりになった。呼び鈴を鳴らすと舞のお母さんが出た。舞のお母さんは私を見るなり怪訝そうな顔をした。
「そんなに走って、どうしたの?」
私は正直に話すか迷った。私に秘密だったのだから、もしかしたらお母さんにも話していないかもしれない。私の口から言っていいものか、判断に困る。
「……舞の体調が心配で、一刻も早くお見舞いに来たかったんですよ」
私は念のため、あのことを話さなかった。
舞のお母さんは笑った。
「心配してくれてありがとうね。でも具合は、もうだいぶ良くなったのよ。舞も一日中一人で退屈だっただろうから、今日学校であったことでも話してあげて」
そういって舞のお母さんは、舞の部屋に上げてくれた。私が部屋に入ると、ベッドに寝ていた舞は上半身だけ起こし、笑顔で迎えてくれた。
「来てくれてありがとう」
「元気そうで何より」
私は椅子を机からベッドのそばに移し、そこに座った。
「明日は登校できるわ」
私はここにきて、あのことを知ってしまったと話すことを少しの間ためらった。秘密は隠し通せたということにしてあげるのが、真に舞のためになるのではなかろうかと。けれどすぐに考え直した。奴らを野放しにしては置けない。責任は取ってもらわないといけないのだ。
「……実は、知ってしまったの。懐妊のこと」
しかし舞はこれに、以外にも恥ずかしそうに笑った。どうして笑うの?
「やっぱりなあ。最近成績落ちてたからね」
成績が落ちたから? やっぱりエロ漫画的お仕置きがあったの? でも、
「やっぱりってどういうこと?」
「知ってるでしょ? うちの学校、『生徒会長は全生徒の模範たれ』っていって、成績や生活態度が悪いと解任されるって。最近連続で赤点数取っちゃったから。……忘れたの?」
……? ………………っ!?
ここで私はようやく自分の間違いに気が付いた。顔が熱い。今すぐこの場を去って走るか叫ぶかしたい。
「どうしたの? 顔が真っ赤だよ?」
舞がうつむく私の顔を覗き込む。見ないで……っ!
どうして私は『解任』を『懐妊』と間違えたんだ。冷静に考えればすぐに勘違いと気が付くはずなのに。そんなに私って冷静じゃない? 子供とか妊娠とかエロいことばっかり考えてる?
「なんで香織がそんなに恥ずかしそうなのよ。恥ずかしいのは普通こっちでしょ?」
そ、そうだ! そもそも舞が解任されるのが悪いんだ! 聞き間違いは誰にだってあることだ!
でも少し安心した。私の想像したことは一切なかったんだね。
「でも珍しくない? テストの点数はいつも良いじゃない。それに最近そんなにたくさん悪い点数取ってたなんて、この前テストが返ってきたときにも言ってなかった」
私は普段通りの声色で質問して取り繕った。
「だって恥ずかしいもの」
そうか。最近の舞の隠し事はこのことだったんだ。
「誰だって悪い点数を取ることはあるわ。言ってくれれば勉強付き合ったのに」
舞は即答した。
「それは無理」
「どうして?」
すると舞は恥ずかしそうに言った。
「だって原因は香織みたいなものだもの。香織と一緒だなんて絶対集中できない」
何となくこちらまで恥ずかしくなるような答えだ。
「私が居なくても勉強できないんでしょ?」
「一人でいる時もあなたのことを考えてたら、勉強が手につかないの!」
これは、四六時中私のことを意識している、つまり大好きと言ってるのも同じことだ。舞から私に告白してきたことは、もちろん今でも覚えている。でも、改めてその時の気持ちが本物で、それが今でも続いていることが証明された。そう考えると嬉しいけれどかなり照れくさい。
「嬉しいこと言ってくれるけど、言いすぎなんじゃない?」
「そんなことない。いつも香織のことを考えてしまうし、香織のことを考えてると、どうしても……その……妄想をしてしまうの」
「妄想って?」
舞は恥ずかしそうに身をよじらせた。
「……エッチな」
舞の顔は耳まで真っ赤だ。
「キスだけじゃ物足りない?」
「……うん」
舞はうなずきながら小さな声で答えた。
「それ以上のことをしたい?」
「……うん」
さらに舞は「それに――」と続ける。
「実は風邪をひいたのもね、多分昨日の晩、舞のことを考えながらシてたからなの。……何回も」
思っていたより舞はエッチな子だったと私は知った。そういえばあの時キスを提案したのも舞だった。初めてのデートも舞が私を誘った。もしかして隠し事は成績のことじゃなくて、エッチなことをしたいって気持ち?
「……ねえ、今じゃダメ?」
「いま!?」
「だって今日は学校休んだからいつもより会うのが遅かったし、わざわざ一人でお見舞いに来てくれて、すっごく嬉しかったんだもの」
どうしよう。私たちは同性といっても恋人同士だし、恋人同士ならそういうことをするのは自然な流れで、いつかはするのかもしれない。でも今だなんて、心の準備が出来ていない。
「ねえ、お願い。いいでしょう?」
潤んだ瞳が熱願する。はだけたパジャマから覗く鎖骨と、そこを伝う汗のしずくがなんとも煽情的だ。私だって舞ほどじゃ無いにせよ、恋人のその姿を見て何とも思わない訳がない。心の準備とやらはどこへ行ったのやら。私は情欲に従うまま舞を抱きしめた。
そして私はそのまま舞をベッドに倒し、覆いかぶさった。
舞のことは言えない。私も十分エッチな女の子だ。
「ごめんね舞、私鈍感だから、あなたの気持ちに気付けなかった」
舞は首を横に振った。
「いいの。今あなたが応えてくれるから」
今日は一人で勝手に騒いで馬鹿みたいだったけれど、舞の本当の気持ちを知ることが出来たし、仲も前よりもっと深めることがきっと出来たと思う。
私たちは、これからは互いに遠慮も隠し事もしないことに決めた。これまでも、そしてこれからも、ずっと一緒の私たちに、そんなものは必要ない。
次の日、私は舞の風邪をもらってしまい学校を休むことになった。後で聞いた話によると舞も風邪がぶり返して休んだらしい。
隠し事 焼き芋とワカメ @yakiimo_wakame
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