第8話
魔王が住む山は、それに相応しい険しい山だった。
ただし、魔王がくれた手書きの地図があればそれほどでもなかった。
少し回り道だなと思った部分は、崖や通りづらい道を迂回したものであって、地図を信じて進んだら罠が! というようなこともない。
なんだこれは。こんなに楽でいいのか。勇者ってもっと大冒険しなくていいのか。
時々化け物が出たが、少し威嚇するだけで逃げていった。
見た目はだいぶ浮世離れしているが、中身は元の動物の性質を残したままのようだ。
それでも元から獰猛なのか向かってくる化け物は、王女の『コップ一杯の美味しい水を出せる能力』で水を浴びせて怯んだところを、僕と大臣ジュニアで切り倒す戦法で進んでいた。
王女の魔法は、思っていたよりずっと役に立った。ただし、一度出したら10分待たないと次が出せないらしいが。
「勇者先輩、大丈夫っすか」
「うん……うーん、少し休んでいいかな……」
ここまでの道程は王女のペースに合わせてきたけれど、ここにきて僕が二人の足を引っ張っていた。
若さ……だろうか……。
「さすがにこの化け物だらけの山で野宿はできないし、今日中に魔王のところへ着かないと……」
「大丈夫っすよ~。この地図パネェ親切だし、化け物もそんな強くないし。このペースならたどりつくっしょ!」
大臣ジュニアの楽天的意見が今はありがたかった。
王女は魔法で出した水を差し出してくれる。なるほど美味しい。
休憩の間に、あの絵本を開いた。
王女の新しい解釈を聞いてから、何度か読み直している。
そう言われると確かに、魔物は勇者を魔王のところへ導いているように読めたし、勇者は国へ戻ったという記述はない。
魔王の手先である魔物が、魔王の敵である勇者を魔王のところへ案内する。
それは魔物の裏切りなのか。それとも魔王自身が勇者を呼んだのか。
勇者が国へ戻らなかったのは死んでしまったからか、それとも魔王を倒した後そこを離れられない理由でもあったのか。
疑問は尽きないが、結局全て想像でしかない。
……魔王に会えば、この謎も晴れるだろうか。
僕は溜息をついて手紙をしまう。
「行こうか」
声をかけ立ち上がり進むと、二人が後からついてくる気配がした。
やがて岐路に差し掛かり、大臣ジュニアに預けてある地図を確認しようと振り返った僕は、硬直した。
二人の後ろに、小山のような巨大な化け物が口を開けて立っていた。
「危な、……っ!?」
振り向いたままの不安定な体勢で剣を抜こうとして、さらに体勢を崩す。
ずる、と足が滑った。
「勇者先輩!?」
彼らが視界から消える。違う、消えたのは僕の方だ。
足を滑らせた先は、崖だった。
声にならない悲鳴をあげながら、僕はそのまま十数メートルほどを滑落した。
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