第7話
魔王からの手紙には、王宮でも持っていないような詳細な手書きの山岳地図と『お待ちしています』の一言。
これは、村人に見られたらまたあらぬ疑いをかけられそうだ。
当然と言えば当然だが、村人は僕達を歓迎してはくれなかった。
一応村に入れてくれて、宿に泊めてはくれたけれど、やはり視線がつめたい。
コミュニケーション力の高い大臣ジュニアが何とか聞き出した所によると、あの化け物は山からこの村におりてきて、突然人の言葉を話したらしい。
「勇者はどこだ、って言ってたらしーっすわ。本当に手紙届けるためだけに来たんすね」
「村に特に被害はないんだね?」
「家畜の豚が何匹かいなくなってるそうっす。豚舎見せてもらったけど、暴れたとか喰われた形跡もなくて、むしろ盗難か脱走って感じでー」
王宮で事務処理した報告書の通りだ。
この山岳部で、家畜の突然死や奇病の報告が複数きていた。ある報告書では、突然死した家畜の死体が動き出しどこかへ走っていったり、奇病にかかった家畜が山へ消えていくのを見た者もいるという。
「これ全部、魔王の仕業なんすかー。スゲーっすね、そんなに家畜集めて何するんだか」
大臣ジュニアが首を傾げながら呟くと、王女がその腕をトントンと叩いた。
「ん? ……ああ、絵本読み終わったんだ。……え? ……いやでも……」
一言も喋らない王女と何故会話できるのか尋ねたかったが、大臣ジュニアが先に口を開いた。
「勇者先輩、王女がこの絵本はただの童話じゃないんじゃないかって言ってるっす」
言ってないじゃん、とツッコミたかったが、言葉の続きが気になるので無言で促した。
「勇者を挑発しに来た魔物は、本当は勇者を魔王のところへ連れていく、案内役じゃないかって」
「え?」
「化け物を倒しながら尾行なんて、尾行相手の協力がないと出来ないって。……確かにそうだな、逃げるよなフツーに」
王女の言葉を伝えながら、感心して頷く大臣ジュニア。
「ってことは……この手紙をくれたあの魔物が、今回の案内役と思っていいのかな」
「そこまでは分からないけど、そうかも、って。え? あとひとつ? ……うん、……うーん、それ言う必要なくね?」
「何? 言ってよ。ほうれんそうだよ」
「あーえっと……王女がですね……この絵本の勇者は魔王を倒したとは書いてあるけど、その後戻ってきたとは書いてない、って……」
僕は唸り声をあげた。
王女の洞察力に舌を巻いたのと、やはり自分は死ぬのかもしれないことの両方に対してだ。
「いやでも! 全部この絵本の『昔々』と同じように進むとは限んねーですし! ね!」
僕がショックを受けたと思って、元気づけようとしてくれているのだろう。
そう、悪い奴ではないのだ。ただ、ちょっと時々意思の疎通が難しいだけで。
「僕なら大丈夫だよ。でもありがとう」
「そっすか……」
「まあとにかく、明日向かう場所は決まったね。いよいよ魔王とご対面かな」
僕は地図と伝言に目を落とす。
几帳面そうだが、少しだけ弱々しくも見える文字。
これを魔王が書いたのだとしたら、いったいどんな人(?)なのだろうか。魔王でないとしたら、いったい誰が?
家畜を集める目的は何なのか。
謎ばかりが増えていく。僕は溜息をついて、手紙を封筒にしまった。
「……今日は君達二人で一部屋使うかい?」
「えっ」
「!?」
「だって明日全員死ぬかもしれないし。最後の夜くらい目をつぶっててあげるよ」
僕の言葉に大臣ジュニアと王女は一瞬顔を見合わせたが、揃ってフルフルと首を横に振った。
「いえ、大丈夫っす」
「でも」
「だって俺達で部屋使ったら、勇者先輩、外で寝ることになっちゃうっすよ」
「え」
「一部屋しか貸してもらえなかったすから」
「あ……そうなんだ……」
どうにもキマらない。
結局ベッドもない部屋で、三人で雑魚寝した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます