嫌われ者の上司

tada

嫌われ者の上司

 私はとある会社に勤めているOLで、端的に言ってしまえば会社内で嫌われている。

 それはもうはたから見ればいじめにも見えるぐらいには、嫌われている。例えば資料などを同僚に配ったとして、同僚は私からは受け取らずに私が近くの机に置いたのを見てから取りに行くのだ。

 そんなことが日常茶飯事の私が、どうしてこの会社に居続けられるかと言えばそれは、私よりも嫌われている人がいるからだ。

 その人は私の上司にあたる人。

 私も上司のことは、嫌いだし周りと同じように上司に対していじめのようなこともしているけれど、これは上司が嫌われているのが悪いのであって私は、何も悪くない。

 周りに合わせているだけだから。


 そんなある日私は、会社内にあるトイレに入っていった。

 するとタイミング悪くトイレから出てきたその上司の前で、私はわざとらしくため息をついた。

「はぁーー」

 上司にとってこんなことは、いつものことのようで上司は、私を無視して鏡の前に立った。

 そこで私は、見てしまった。

 鏡に上司が映らないという現象を──そんな摩訶不思議な都市伝説な現象を見てしまった。

 目をこすりもう一度見てみるが、やはり上司は鏡に映っていなかった。

 上司自身もこの現象を信じられないというように、表情を青ざめながら体を震わせていた。

「あ、あの」

 私はそんな上司に思わず声をかけてしまった。絶対に関わらないほうが楽なのに、そもそも私が関わったところで、何も解決なんてできないのに。

 すると上司は私の言葉を遮るように、私を睨みつけた。上司は今まで溜め込んでいたものを全て私にぶつけるように睨みつけた。

 私を睨み終えた上司は、トイレから小走りに出ていった。

 私が仕事部屋に戻るとそこには、上司の姿はなかった。

 同僚たちに訊くと上司は、帰っていったと言っていた。


 次の日会社に行くとそこには、上司の姿はなかった。その次の日もまたその次の日も上司は会社には、姿を現さなかった。

 鏡に映らない上司を私が見た日から、上司は会社に来なくなった。

 そんなある日会社内に一つの噂話が流れ始めた。内容はこういったものだった。


 ある日突然会社に来なくなったあの上司を街で見かけた。しかし上司の片腕がきれいに、元からなかったように消えていたという噂だった。


 この嘘くさい噂を本気にするような人は、私の知る限りの人の中にはいなかった。

 そりゃそうだろうと私も思う⋯⋯あの日あの時私が鏡を見てなければ。

 けれどもし噂を信じたとしても私にできることはない──そう考えた私は、その噂を無視した。

 しかし翌日、噂の内容は悪化していた。

 昨日までの噂だと片腕だけだったのが、今日はもう片方の腕までもが消えていたという。

 私は今日も噂を無視した。

 だって関わりたくないから。

 あんな嫌われ者の上司なんて、どうなってもいいから。

 そして次の日、また次の日と噂の内容はどんどん悪化していった。

 片足、もう片足、そして顔までもが消えていったという話だった。

 会社内は、そんな誰が流し出したのかもわからない噂話で持ちきりだった。

「あの噂ホントだったらヤバイよね」

「うんうん」

「けどホントだったらあの人、会社に来れないってことでしょ? それは嬉しいよね」

「あ、そういうこと確かにそれは嬉しいかも」

「うんうん嬉しい!」


 そして次の日何故か、その噂話を途端に誰もしなくなった。

 誰も興味がなくなったように。

 しかもあの日まで、上司が座っていた席には別の人が、座っていた。

「え? あの上司どうなったの」

 私がそう呟くと、周りにいる人全員が、私に向かって言った。


「「「あの上司って誰?」」」


 は? あの嫌われ者の上司を嫌っている人はいても、知らない人はいないはずなのになんで?

 この状況が怖くなった私は、トイレに逃げ込んだ。

 多少気持ちを落ち着かせてトイレの中から出て、自分の表情を見てみようと鏡に足を運び出したその瞬間聞こえた。

「はぁーーー」

 私を見てのため息だった。

 そんなため息を私は、何事もなかったように無視して鏡の前に立つ。


 そして自分の表情をみ──見れなかった。


 鏡に自分の顔、体、腕全てが映っていなかった。

「あ、あの」

 私に向かってため息をついた会社員は、何故か心配そうに話しかけたきた。

 私は助けを求めるべく声の方向に目をやるとそこにいたのは、私の次に嫌われている会社員だった。

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嫌われ者の上司 tada @MOKU0529

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