第24話

 勉強を教えた甲斐かいがあったのか、結果、ギリギリだったけれど、姫那ひめなはなんとか中間テストを乗り越えることが出来た。

 あとは月末の陸上大会で、結果を出すだけ――。

 そんな中でのことである。

 ようやく中間試験前の勉強期間から解放されたぼくと陸とめるるの三人は、すがすがしい気分でコンピュータ研の部室に集まり、久しぶりにゲームをプレイしていた。

 例のラストスタンディングタイプのバトルロイヤルゲーム『ロイロワ』である。

 今日はトーリさん抜きの、トリオでのプレイだ。

「そういや例の件、どうなったんだ?」

 プレイ中、いきなり淳也じゅんやが訊ねてくる。

「例の件?」

「めるるが調査した件だよ。リトルプリンセスに伝えたんだろ?」

「ああ、そのことか」

 この場には、ぼくたち三人しかいない。

 だから、話をしても問題はないだろう。

「デートして、上手くいったら告白するんだって」

「なっ、マジか!? って、やられたっ!」

「おい……って……うわっ、ぼくもだ!」

「あー、わたしも一発ヘッドショットー……」

 言葉足らずのぼくの説明で気がれた隙を突かれて、陸はやられてしまったようだ。

 陸がやられたのに動揺して、ぼくもやられてしまった。

 めるるも同じようだ。

「んで、さっきの件の詳細を聞かせてもらおうか?」

 仕方ないとゲームを終了した陸は、手にしていたスマホを机の上に置いて、訊ねてくる。

「ええと……」

 協力者の二人である。

 今更、隠すこともないだろう。

 ぼくはめるるから聞いた話を姫那に伝えたことや、それを受けての姫那の決断などを伝えていった。

「つまり、来週ある地区大会で優勝したら、それを理由にデートに誘って、いい雰囲気になったら告白するってことか。それって、前提条件のハードルがめちゃくちゃ高くね?」

「でも、一年の時は天城さん、地区大会で優勝してたはずだよ?」

 それは、その通りだ。

 ぼくも姫那や母さんから聞いている。

「とはいえ、怪我明けなんだろ? 簡単じゃねえと思うけどな」

 正直、ぼくもそう思っているし、怪我明けなんだから無理したらダメよと、母さんもよく言っている。

「でもって、お前はどうなんだ?」

「……へ?」

 いきなりの問いに動揺して、呆けた返事をしてしまう。

「それって、どういう……」

「新作、書けてるのかって聞いてるんだよ」

「あっ……」

 そっちか、と思った。

 藤堂さんに告白しないのかという意味だと思っていたからだ。

 でも、そうではなかったらしい。

 でもって小説だけれど、姫那のことばかりに気を取られて、プロットすら進んでいなかった。

 勉強を教えるのに時間が取られていたこともあるし、最近書けているのは、毎日の日記くらいである。

 これでは、本末転倒ほんまつてんとうだ。

「ええと、今日はこのくらいにして、家に帰って新作の原稿をやるとするよ」

 思い立ったら吉日だ。

 凛々菜のことに話題が及ぶのも避けたかったので、ぼくはゲームを切り上げ、この場をあとにすることにした。

「その反応、書けてないな」

「ええと、それじゃ!」

「おい、一冴かずさ!」

 ぼくは逃げるように、コンピュータ研の部室をあとにする。

 きっと陸とめるるの二人は、あきれたような表情を浮かべていただろう。

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