第23話
このあと用事があるという藤堂さんと一緒に、ぼくは店を出た。
その時もらった栞は、今でも大事に使っている。
幸せの、四つ葉のクローバー。
その効力のおかげだろうか。
実際、いいことがあった。
『蛍火』の人気に、火がついたことだ。
藤堂さんは、ぼくの運命の女神様なのかもしれない。
でも、ぼくはその感謝を告げることはもちろん、
小説を書いていることも、告げられていない。
書籍化でもしたら、君がくれたあの栞のおかげだとお礼を言って、印税でお返しのプレゼントでも買って、自分の思いを告げてみようかなんて、そんなことを考えてしまう。
チャンスはあるかもしれない。
(……って、それじゃなんか、
とはいえ、気にすることじゃないだろう。
むしろ姫那が成功したら、参考にしてもいいくらいだ。
このような状況すらも、四つ葉のクローバーのもたらしてくれた、幸運の一つなのだろうか。
その幸運を掴めたらいいななんて、ぼくはそんな風に思っていた。
※
始まった、猛特訓の日々。
毎日力尽きるまで、姫那は練習しているようだ。
部活から帰宅したあと、母さんの誘いに応じて、うちのリビングで三人揃って夕食を摂っている最中に、食べながら眠ってしまうこともあった。
他にも、うちに来ると約束したけど、来ない姫那の様子を母さんが見に行った時のことである。
「カズちゃん大変! 手伝いに来て!」
なんて、母さんが慌てた様子で玄関から呼び掛けてきたので、なんだなんだと思って行ってみると、湯船の中で姫那が眠っていて、
「……あれ?
タイミング悪く、姫那は目を覚ましてしまった。
そして、母さんの後ろに立っているぼくに視線を向けるなり、姫那は顔を真っ赤に染めて――。
「な、なんてあんたがここにいるのよっ!」
叫ぶと同時に、風呂蓋の上にあった
気付いた時には、もう遅かった。
「……ああっ! カズちゃん! 大丈夫、カズちゃんッ!」
桶が顔に命中したぼくは、思いっきり背中から床に倒れて頭を打って、そのまま気を失ってしまった。
他にもぼくが中間試験対策に勉強を教えている最中に寝落ちしたこともあれば、学校でも授業中に寝てしまったこともあったらしい。
そんな日々が続いて――。
あっという間に、数週間が過ぎていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます