第21話

「……でもさ、わたしのこと好きとか、気になってるとかは、淳也じゅんやくんは言ってないのよね……。そもそも、別のクラスになってからは、殆ど話もしてないし……」

 結局のところ、不安なのは変わらないようだ。

 うーっと、姫那ひめなは頭を抱えて考え込んでしまう。

 その姿を見ていると、なぜか笑みがこぼれてしまった。

「な、何を笑ってるのよっ!」

「お前、当たって砕けろタイプだと思ってたんだけど、結構、繊細せんさいなんだなって」

「うるさいわね! 乙女おとめはみんな、繊細なものなのよ!」

 顔を真っ赤にして、そう叫んだあとのこと。

「で、あんたはどう思うわけ?」

「え?」

「だから、脈はありそうか、なさそうかって聞いてるの!」

「うーん……」

 今喋ったことを思い返しながら、考えてみる。

 クラス委員だからと言って、気にもならない女の子のために、わざわざ毎日ノートのコピーを届けたりするだろうか?

 自分だったら、絶対にしないだろう。

 姫那の部活の仲間や友達に、週に一度、纏めてだとか、頼んで届ける方法だってあったはずだ。

 それなのに、あえてそのような方法を採ったということは、何かしらの理由があると考えてもいいだろう。

 ……単に、淳也の人が良すぎるという可能性もあるけれど。

 だからこそ、クラス委員に抜擢ばってきされているという可能性もあるけれど。

 でも――。

「ないよりは、ある方なんじゃないか」

 それが、ぼくの出した結論だった。

 めるるも姫那が成功する可能性は結構あると思うと言っていたし、似たような結論になったというわけだ。

「そうね……。確かに、そう。ないよりある。完全にないよりも、いいわよね。うん」

 自分に言い聞かせるように、呟き続ける姫那。

 どうやら、満足いく回答こたえだったようだ。

「で、どうするんだ? いっそのこと、告白してみるか?」

「は!? 告白って、あんた、何を言って……!」

「そうでもしないと、これ以上はわからないだろ?」

 動かなきゃ、手に入れることは出来ない。

 動かないのが、一番よくない。

 陸やめるるが言っていたことだ。

「でも、それはハードル高いっていうか……なんていうか……」

「だったら、どうするんだよ」

「そうね、それなら、と、とりあえず、デート……誘ってみる!」

「ほう、デートか」

「そう、デートよ!」

 立ち上がり、ぐっと右手の拳を握り締めるようにしながら、姫那は宣言をした。

「中間テスト明けの次の地区大会で、去年みたいに優勝することが出来たら、デートに誘うことにするわ! そして、デートが上手くいったら告白する! 今、決めた! 絶対に、そうしてみせるわ!」

 つまるところ、普通に誘うのは恥ずかしいので、理由をつくるということのようだ。

 あなたのおかげで入院中も勉強が遅れることはなかったし、進級することも出来た。

 無事完治して大会にも出られたし、優勝することも出来た。

 その原動力は、全てあなた。

 めちゃくちゃ感謝してる。

 だから、お礼がしたいの!

 要約すると、そういうことのようだ。

「なんだかいける気がしてきた! 次の大会、絶対、優勝してみせるから!」

 やる気を見せるように、ぐっと胸の前で両手の拳を握り締める姫那。

 自分の描いた絵に、満足もしているのだろう。

 正直なところ、いきなりそんなことを言われても戸惑うと思うし、その重さに引いてしまう気もするけれど、やる気に水を差すのも悪いだろうと思って、ぼくは何も言わないことにした。

 姫那の恋愛が上手うまくいくことは、ぼくにとっても悪いことではないのだから。

「あ、練習がんばるから、そのぶん、中間テスト対策はよろしく。あんた、それなりに成績よかったわよね? わたし、勉強はあんまり得意じゃないの」

「それって、ぼくに勉強を教えろってことか?」

「そうよ。ダメかしら?」

「うーん……」

 まあ、ぼくもそこまで得意じゃないけれど、確かに姫那よりは出来る方だろう。

「……仕方ないな、わかったよ」 

 それも協力のうちだと、受け入れることにした。

「やった! それなら明日から、練習も勉強も、どちらも全力でいくわよ!」


 その言葉通り、姫那は翌日から大会の日まで。

 全力で、日常を駆け抜けていく――。

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