第18話

「ふあー、すごい本格的! それに、お嬢様だって!」

「ずいぶんテンション高いな……」

「だって、メイドさんだよ! メイドさん! 夢じゃん! 憧れじゃん! 陸もそう思うよね!」

「ああ、俺もテンションあがってるぜ!」

 二人とも、楽しそうでなによりだ。

 言葉通り、サチコさんはすぐに紅茶を持って戻ってきた。

「本日の紅茶はニルギリという茶葉を使っています。味はシンプルなんですけど、柑橘系の香りが特徴なものになんですよ。ストレートでも、ミルクでも、お好きな方法で飲んでみてください」

 そう言いながら、サチコさんはティーカップにお茶を注いでくれた。

「あ、確かにいい匂い♪」

 最初に注がれたのはめるるだ。

 ティーカップに顔を近付けて、その香りを嗅いでいる。

 続いて注がれたぼくも、同じように嗅いでみた。

(ほんとだ、ミカンみたいな匂いがするな)

 そのまま、口をつけてみる。

 言われた通り、さっぱりとしたシンプルな味だ。

「いかがでしょうか?」

「美味しいです」

「よかったですv」

 ぼくが素直な感想を伝えると、サチコさんは嬉しそうに微笑んだ。

「残りはティーポットに入っているので、いくらでもおかわりしてください。中身がなくなっても、言ってくださったら、すぐに新しいのを用意しますので」

「あ、一ついいですか?」

 サチコさんの話が終わると同時に、めるるが手をあげた。

「はい、なんでしょう?」

「わたしたち、ケーキセットを頼みたいんですけど、何かオススメはありますか?」

「ケーキセットですか! チョコが苦手でないのであれば、チョコレートのシフォンケーキはいかがでしょう? きっと、お口に合うと思いますよ」

 近くにあったメニューを開いて、メイドさんはシフォンケーキを指で示した。

 ホイップクリームとイチゴが表面にトッピングされている、とても美味しそうなものだ。

「なら、わたしはそれで!」

「ぼくも、それにしようかな」

 めるるに続いて、ぼくは言った。

 ぼくはイチゴが好きなので、何も問題ないどころか、むしろ好んで食べたいくらいだ。

 続けて、めるるが訊ねる。

「陸はどうする?」

「うーん、俺はこれが気になるから、これにするかな」

 そう言って陸が指で示したのは、季節のフルーツタルトだった。

 イチゴやブラックベリー、オレンジにキウイなどが乗っているものだ。

 陸が、メイドさんに問いかける。

「これも今日の紅茶に合いますかね?」

「まったく問題ありませんよ。ニルギリは何にでもあいますし、柑橘系の香りも、いいエッセンスになると思います」

「なら、決まりだ。俺はフルーツタルトにするよ」

「了解致しました。チョコレートのシフォンケーキ二つと、フルーツタルト一つ。すぐに用意してきます。少々お待ちくださいませ」

 手に持っていた手帳のような伝票に記帳し、ぺこりと頭を下げたあと、バックヤードへと向かっていくサチコさん。

 ぼくたちの他にいる客は男同士の三組だ。

 店内を見回しながら、お店の雰囲気を楽しんでいると、すぐにサチコさんが三つのケーキをのせたトレイを持って戻ってきた。

「どうぞ、お召し上がりください」

 ぼくたちの前に、それぞれ注文したケーキを置いたあとのこと。

「何か御用があれば、いつでもお呼びください」と言い残して、サチコさんは一度、テーブルから離れていった。

 バックヤードの向こうに、その姿が消えたあとのこと。

「いただきます」と、ぼくたちは、それぞれケーキに手をつけた。

 フォークで端から掬ってぱくり。

 甘さは控えめ。

 でも、ふわふわな口溶けがたまらない。

 とても美味しい、チョコレートシフォンケーキだった。

 店の見た目や、店内の雰囲気通り、食べ物にも妥協はしていないようだ。

 一口食べたあとに紅茶を飲むと、サチコさんが言っていた通り、ニルギリの柑橘系の香りと、スッキリとした味わいが口の中で折り重なり合い、至高の幸せを与えてくれた。

 少し飽きて来たら、ホイップクリームとイチゴをペロリ。

 甘さで口の中が満たされる。

 本当に、最高だ。

 サチコさんの言う通り、季節のフルーツタルトにもニルギリはあったようで、陸も満足げである。

 もちろん、ぼくと同じチョコレートシフォンケーキを食べているめるるもだ。

 その感想を互いに伝え合ったあとのこと。

 ついに、本題――。

 ぼくが今日、陸とめるるに今日会っている理由についての話。

 淳也の調査結果ついての話になった。

 切り出してきたのは、めるるからだ。

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