第17話

 そして、週末。

 天気のいい土曜日のことである。

 潮の香りがする新ノ浜駅に、ぼくは降り立った。

 この海戸市は、海と山に囲まれている都市である。

 海戸高校があるのはどちらかといえば山側で、この新ノ浜駅があるのは、その駅名からわかるように海側だ。

 約束の場所である新ノ浜の中央改札を出ると、すぐに陸とめるるの姿を見付けることが出来た。

 陸はシンプルに長ズボンにTシャツ。

 その上から、襟つきのシャツを羽織っている。

 めるるは、さすがコスプレイヤーというべきなのだろうか。

 むしろ、いつも通りというべきなのだろうか。

 フリルのたくさんついた、可愛いらしい服を身につけていた。

 ぼくは二人に声を掛ける。

「悪い、待たせて」

「約束の時間的まで、まだ三分もあるぜ。まったく問題ないって」

 そう答えたのは陸だ。

 続けて、めるるが言った。

「ちょうど今、陸とこれからどうするって話をしてたんだ。すぐメイドカフェに行く? それとも、先に買い物する? わたし、買いたい本あるんだけど」

「なら、買い物でいいよ。ぼくも見たい本あるし」

「それなら、決まりだね!」

 まずは買い物だと、ぼくたちは揃って歩き出す。

 向かう先は、駅前にあるサニープラザ。

 いわゆる、ショッピングセンターだ。

 その中には、漫画やライトノベルなどなど、いわゆるオタクグッズと言われるような商品を扱っているお店がたくさん入っている。

 普通の書店もすぐ近くにあるし、書店めぐりが好きなぼくは、よくサニープラザを訪れていた。

 当然、似た趣味を持つ、陸やめるるも同じだ。

 慣れた足取りで、ぼくたちはサニープラザに到着。

 いろいろなオタクショップを回り始める。

 買い物をしながら、一軒、二軒、三軒――。

 四軒目を出て少し歩いたところで、ついに目的のメイドカフェ、フランス語で天空の意味の名を持つ『Cielシエル』の前に、ぼくたちは辿り着いた。

「ホームページで見てはいたけど、実物を見ても、本格的なつくりだな……」

 その言葉通り、ショッピングセンターの中にある店だというのに外観は洋館のようになっていて、めちゃくちゃ本格的だ。

「中、入ろっか」

 その言葉に続いて、厚い扉を開くめるる。

 カランカランと、鐘の音色が明るく響く。

 続いてぼくたちを向かえ入れてくれたのは、オーソドックスなメイド服に身を包んだ、メイドさんたちだ。

「お帰りなさいませ、旦那様――そして、お嬢様!」

 一歩前に出た黒髪ロング、眼鏡のメイドさんに続いて、他のメイドさんが揃って「お帰りなさいませ!」と声をあげ、頭を下げる。

 それだけで本当に、旦那様やお嬢様になったような気分になってしまう。

 店内の雰囲気も洋風そのもので、天空の宮殿を意識しているところもあるのだろう。

 内装は空の色で彩られているし、まるで異世界に迷い込んでしまったようにすら思えるほどだ。

「おお……すごい……おおお……」

 その内装やメイドさんたちを見て、めるるはキラキラと目を輝かせてた。

 そこに先ほど一人前に出た、いかにもメイド長といったタイプの黒髪ロング、眼鏡のメイドさんが近付いてきて、ぼくたちに声を掛けてくる。

「当店のご利用は初めてでしょうか?」

 ゲームやアニメでは見ているとはいえ、こうしてリアルメイドさん(とはいえ、本物ではないのだけど)と遭遇するのは初めてだ。

 それだけにぼくが戸惑っていると、横からめるるが助け船を出してくれた。

「はい、初めてです。でも、サイトを見てきたので、システムは知ってます!」

「左様でございますか。博識でございますね、お嬢様。それなら、説明は必要はないようです。サチコ、あなたが案内してあげなさい」

「はい!」

 ぼくたちの方へと一歩前に出たのは、小さなおかっぱ頭のメイドさんである。

 どうやら彼女が、ぼくたちの担当になったようだ。

「それでは、こちらへ――」

 にこりと微笑んで歩き出したサチコさんによって、ぼくたちは店の奥にある、円形の、木のテーブルに案内された。

 ちょうど三人がけの席だ。

「すぐに紅茶を用意しますので、少々お待ちくださいませ」

 ぼくたちが席についたのを確認したサチコさんは、そう言い残して、ぱたぱたとバックヤードに消えていった。

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