第16話

 めるるに淳也の調査を頼んだ日。

 学校から帰宅したあとの、ちょうど午後八時くらいのことである。

 自分の部屋で机に座り、ノートパソコンでニュースサイトを見ていると、玄関の方から音が聞こえてきた。

 姫那が部活タイムを経て、帰宅し、夕食を取りに来たのだろう。

 今日のメニューはビーフシチューだ。

 夜勤に向かう前に母さんが用意してくれたもので、ぼくはすでに食べ終えている。

(せっかくだし、今日得た情報を、一応、伝えておくかな)

 そう思って椅子から立ち上がろうとすると、トントンと、部屋の扉がノックされた。

 そのままぼくは椅子から立ち上がり、ノックに応えるように、扉を開く。

「どうしたんだ?」

 すると姫那は少し俯き、頬を朱に染めて、申し訳なさそうに訊ねてきた。

「今日、何かわかったことはあったかなって」

 ナイスタイミング!

 にんまりと笑みを浮かべて、ぼくは答えた。

「ちょっとだけあったぞ」

「ほんと!」

 ぱっと、姫那の表情が明るくなる。

 本当に嬉しそうだ。

「そこまで喜ばれるようなことでもないんだけど」と一応前置きをして、ぼくは続けた。

「朝、淳也と少し喋ったんだ。その後さ――」

 ぼくは淳也がクラスメイトの女子と喋っていたこと。

 その内容が、今、放送中のドラマの内容であること。

 淳也もそれを見ているらしいことなどを告げていった。

「それ、いい情報よ! わたし、チェックしてなかったから、チェックしとくね! 話チャンスがあった時、ネタになるかもしれないし。で、それはそうと――その女子って、誰?」

 ギロリと睨み付けるようにして、訊ねてくる姫那。

 今にも相手を殺してしまいそうなほどに、背筋が冷たくなる視線だった。

「あ、ええと、誰だったかな……」

 ぼくは思わず目を逸らす。

 もちろん覚えているけど、ここは誤魔化すことにした。

 そのクラスメイトに、迷惑がかからないようにだ。

「……そう。それなら、仕方ないわね」

 どうやら諦めてくれたようだ。

 その少女、吉川さんはぼくに感謝するべきだと思う。

「ともかく、ありがとう。そのドラマ、ちゃんと見てみるわ」

 ネットで過去の映像が見付けられたらいいんだけどと、続ける姫那。

 公式で配信しているかどうかはぼくは知らないけれど、きっと、どこかにはあるのだろう。

 よい悪いはともかく、インターネットというのはそういう場所(ところ)だ。

「ついでにさ、知りあいの女子にも、調査は頼んでおいたから。ぼくとは違って顔が広いやつだから、いろいろと、淳也の情報を仕入れてくれると思うんだ」

 ぼくが報告を続けると、姫那は驚いた顔をして、

「は!? 頼んだって、まさかあんた、わたしのことは、喋ってないわよね!」

「それは、もちろん!」

 本当に喋っていない。

 というか、勘違いされている。

「小説の取材って話をしてるから、大丈夫だよ」

「小説の取材って……」

 ぼくの言葉を聞いて、怪訝そうに目を細める姫那。

「あんたが小説を書いてるのは、秘密じゃなかったの?」

「ええと、その頼んだ相手なんだけどさ……」

 ぼくはその相手が親友、代々木陸の彼女――。

 姫那と同じクラスの、桜木めるるであることを伝えていった。

 ぼくが小説を書いていることを知っている、数少ない二人でもあることもだ。

「ああ、そういうことなのね。あの女と、あの男のカップルか……。確かにあんた、よくあの二人と一緒にいるし、あの女も情報通っぽいし――そうね、ありがとう。その成果も、楽しみにしているわ」

 これにて、今日の報告は終了。

「また何かわかったら、すぐに教えて! よろしく!」

 そう言い残して、姫那はぼくの部屋から出て行った。

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