第7話

「まさか、シャワーを浴びているなんてな……」

 あんな状況に出くわすなんて、考えてもいなかった。

 それにしても、困ったものだ。

 部屋に戻って再びベッドに寝転がっても、天城さんの裸が頭から離れない。

 濡れた髪が色っぽかったし、一度、少し前に触れた身体――その感触すらも、リアルに想像出来てしまう。

 押し倒してしまった時に覚えた香りや感触との合わせ技で妄想が加速し、その先へと突き抜けてしまいそうになるほどだ。

(ダメだ、ダメだ! こんなこと考えてちゃ!)

 とりあえずゲームでもして落ち着こうと、ぼくはソシャゲを起動して、周回を開始。

 無心で、デイリー任務を消化していく。

 スタミナが切れて、やることがなくなるまでの時間は、ちょうど十分くらい。

 それでもまだ、チャイムが鳴ることはない。

(……って、話はあとで聞くと言っていたけれど、家に来るとは言っていなかったっけ……?)

 だとしたら、そろそろこちらから話にいくべきなのだろうか――などと迷っていると、ピンポーンと、チャイムが鳴り響いた。

 母さんならば、チャイムは鳴らさないはずだ。

 なので、天城さんに違いない。

 玄関に向かって扉を開けると、予想通り天城さんだった。

 さっきとは違って、もちろんちゃんと服を着ている。

 ただ、その頬と言えば、記憶の中と同じように、ほのかなピンク色に染まっていた。

「ええと……」

 どう声を掛けたらいいのかぼくが迷っていると、立て続けに声を掛けられる。

「その、荷物、開けてて……汗、かいたから……シャワー浴びてたの! それで、チャイム、聞こえなくて……!」

「あ、うん……。こっちこそ、勝手に扉、開けてごめん……」

 言い訳のような状況説明に対して、謝罪した直後のことだ。

「あら、ちょうどよかったみたいね」と聞こえて来た声があった。

 母さんのものである。

 声の方に視線を向けると、半径三十センチくらいの大きなUFO型のトレイが入っている袋を持った、母さんの姿を見ることが出来た。

 その袋をぼくたちに見せつけるように持ち上げて、母さんは続ける。

「これ、パーティ用のオードブルセットなの。病院でもお祝いごとがあるときに使っているお惣菜屋さんのでね。とても人気なのよ。わたしは着替えてくるから、カズちゃんが開けて、準備をしておいて」

 ぼくにその袋を渡した母さんは、今にも鼻歌を歌いだしそうなくらいに上機嫌な様子で、家の中へと入っていった。

「話って、このことだったの?」

 ぼくが両腕で受け取った袋に視線を向けながら、小声で訊ねてくる天城さん。

「うん」

 頷いて、ぼくは続ける。

「夕飯、まだ食べてないよな?」

「だから、問題ないけど……」

 ぼくから視線を逸らす天城さん。

「とりあえず、さっきのことは忘れて――」

 照れくさそうに頬を染めながらお願いされたせいだろうか。

 濡れそぼった天城さんの姿が、再び脳裏に蘇ってきてしまう。

「……わかった?」

「わ、わかった……!」

 ギロリと睨み付けられたぼくは、慌ててその姿を振り払って答えた。

 すると、ラフな室内着というか、ほぼ下着姿といってもいい、いつもの姿に着替えを終えた母さんが、玄関で話を続けていたぼくたちをリビングから覗き込むようにして、声を掛けてくる。

「あなたたち、そんなところで何を話してるの? 歓迎パーティの準備も出来てないし。母さん、お腹すいちゃったわ。はやくこっちに来て、パーティを始めましょう」


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