六章 アンバーカラー 2—4


 ジェイドはネットの雨をかわし、サポーターを乱暴につきとばした。


「くそッ。相手がこの前のクリーチャーみたいなヤツらなら、やっつけてしまえるのに」


 工場のサポーターはハイメタル製のボディーで、ジェイドのカッターやエアガンはあまり効きめがない。ジェイドの武器は、あくまで竜をターゲットに想定している。逃げるのが、やっとだ。


 背後からは、にぎやかなオニキスの声もついてくる。


「ネット弾はやっかいだね——うわ、うわ、うわわ。ふう。あぶない。あぶない」


 大変なのはわかるが、助けているゆとりはジェイドにもない。声が聞こえているうちは大丈夫だと、夢中で走る。


 ネット弾をエアガンで撃ちかえし、弾の軌道をかえる。ジェイドたちを追ってくるサポーターの真上で爆発させた。これで数体はへった。が、次々に新しいサポーターが駆けつけてくる。さっきの出入り口からやってくるようだ。


 オニキスが問いかけてきた。


「あそこしか出入り口はないみたいだね。どうする? あそこを突破しなけりゃならんが、行けそうか?」


 正直にいえば、ジェイドには自信がない。


 自分一人なら、なんとかなる。

 ネット弾さえ注意をはらっていれば、サポーターをなげとばしながらでも、あのハッチまで体あたりしていける。

 しかし、今、こっちにはエンジェルがいるし、オニキスも戦闘向きとは言えない。


「とにかく、あのハッチまで行こう。やつらの集団のなかへ行けば、ネット弾は撃てなくなる。同士討ちするからな。おれが二人を守るから、どうにかして突破するんだ」

「うん、まあ、それしかないからね。うん、まったく、それしかない」

「ジェット噴射で行くからな。ついてきなよ」


 やけっぱち気分で、ジェイドはサポーターがかたまりになっているハッチの前まで、いっきに三十メートル跳躍した。着地のさいに、まわしげりで四体ほど倒す。


 ジェイドはエンジェルをおろし、あとから来たオニキスとのあいだにかばう。

 サポーターはマジックハンドや捕獲チェーンで攻撃してくる。それを一体ずつ持ちあげ、なげとばした。


 だが、ジェイドたちが前に立った瞬間、ハッチはひらかなくなる。


「ああ、くそッ。さっきまで、じゃんじゃんサポーター出てきたくせに、ロックかけやがったな!」


 ハッチは自動でも手動でも、ぴくりとも動かない。


「ジェイド。パスワード入力パネルがあるぞ」


 オニキスの言うとおりだ。ハッチのよこにパネルがある。さっそく、ハッキング機能が役立つ。


「あけてくれ。ここは、おれがもたせる」

「まかせてくれ!」


 オニキスがパネルにとびつく。

 エンジェルをオニキスのほうに押しやり、ジェイドは二人を背後に守った。


 サポーターは、ジリジリあとずさって、三人まとめてネット弾でとらえようとする。

 そのたびにジェイドはかけていって、数体をひきずりもどし、背中にある点検修理用の非常停止ボタンを押してやった。こうすると、サポーターは五分くらい動けなくなる。止まったところをバリケードがわりにして、ネット弾をエアガンで撃ち落とす。


 すると、サポーターはネット弾での捕獲をあきらめたようだ。列になってならび、いっせいに全員で押しよせてきた。自分たちのボディーで、ぎゅうぎゅうに圧迫し、身動きとれなくしようとしているのだ。


 ジェイドはギョッとした。

 急いでエンジェルの近くにもどり、サポーターの集団の前にたちをふさがる。


 こんな攻撃、ジェイドやオニキスは、へっちゃらだ。だが、やわらかい生身の体のエンジェルは違う。こんな金属のかたまりが、何十トンも折りかさなって突進してきたら、確実に圧死してしまう。


「く……くそッ! まだか? オニキス!」

「待ってくれ。もう少しだ!」


 ジェイドは両手をひろげ、両足をふんばって、押しよせるサポーターの波を全身で受けとめた。パワーを最大出力にするが、それでも、ジリジリと、ジェイドの足は後退していく。


(もう……もたない。これ以上……)


 そのとき、オニキスが叫んだ。


「ひらいたぞ!」


 ジェイドは歓喜した。だが——

 ひらいたハッチのむこうには、ずらりとサポーターがならんでいた。


(ダメ……だ。もう……)


 ジェイドは絶望的な気分で目をとじた。


 ところが、次の瞬間、とうとつにサポーターたちが狂ったような変な動きをして、バタバタと倒れていった。

 わけがわからず、ジェイドたちは、ぼうぜんとする。すると——


「マザーからサポーターへ指示を送る周波数と、同じ周波数の電波をぶつけて、命令を遮断しました。これで、しばらく起きあがれないでしょう」


 この声は……知っている。

 ふりかえったジェイドは息をのんだ。


「エヴァン!」


 グリーンの瞳のEが、微笑をうかべて立っていた。

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