六章 アンバーカラー 1—3
「もし、犯人がUなら、どの都市のマザーコンピューターにも、おれたちのIDとは別の形で登録されているのかもしれない。
それとも、最初から認識情報もないのか。EDみたいなハッキング機能で、いろんなシティに出入りしてるなら、あとでチェックしても、ヤツの足どりはつかめない。どこのコンピューターにも残らない。
おれが以前、エヴァンが殺された前後に、キューブシティーに出入りしたヤツがいないか調べたとき、誰も該当者はいなかった。だから、キューブシティーの住人かと思ったけど、Uみたいな得体の知れないヤツなら、住人じゃなくたって出入りできたかもしれないんだ」
考えれば考えるほど、Uが一連の殺人の犯人としか思えなくなった。
「Uの居所をつきとめよう。ドクなら知ってるはずだ」
これまでは、ドクが犯人ではないかと疑っていたから、連絡をとらなかった。が、ドクが犯人でないなら、彼から話を聞くのが、もっとも早い。
それに、ドクがUからジェイドたちをかばったのなら、ドクの立場が危うくなった可能性がある。
あの時点で、研究所のなかに、ドクとUは二人きりだった。そう思うと、急にドクが心配になってくる。
「ドクに電話してみる。ちゃんと出てくれりゃいいけど」
オニキスの部屋のコンピューターから、マザーコンピューターに通話を申しこんだ。ドクがガーデンシティーに帰っているかどうかはわからない。
祈るような気持ちで、ジェイドは待った。だが、しばらくして、マザーコンピューターは冷たい返答をよこしてきた。
「型式DIAMONDは、永久停止が確認されました。シティの住民権、再生権、分身権、配合権、修復権は抹消され、廃棄工場への送付が決定。通話申請は却下します。型式の
「もういいよ」
ジェイドはマザーとの交信を断った。
(遅かった……やっぱり、ドクが犯人じゃなかったんだ。ドクは、おれたちを逃がしてくれただけだったんだ)
「ジェイド?」
「どうだったんだね?」
エンジェルとオニキスに見つめられて、ジェイドは首をふった。
「ドクは……殺された。死亡が確認されたって」
「ダン……」
エンジェルが深く息を吸いこむ。
エンジェルにとって、ドクは父親みたいなものだった。涙の粒で三連のネックレスが作れそうなくらい、ぽろぽろ泣きだす。
ジェイドはエンジェルの頭に手をかけて、自分の肩にもたれさせてやった。
今日はエンジェルにとって、大切な人を立て続けに亡くす、つらい日になってしまった。
たった百年しか生きないエンジェルより、永遠の寿命を持つ彼らのほうがさきに逝くなんて、考えてみれば皮肉なことだ。
「ごめん。エンジェル。あのあとすぐ、ドクの研究所へ行くべきだった。そしたら、ドクは助かっていたかもしれないのに……」
しかし、エンジェルはつぶやく。
「ジェイドのせいじゃない。悪いのは、Uなんでしょ?」
「そうだね。でも……」
「前に、ダンが誰かと話してるの、聞いたことがある。となりの部屋で早口で話してたから、よく聞きとれなかったけど。Uがなんとかって言ってた。Uの調整はうまくいってるか、とかなんとか。計画は最終段階だ……とか? それで、そのとき、ダンが言ったの。マーズに行って仕上がりを見てみようって」
これを聞いて、オニキスは喜んだ。
「マーズか! こりゃスゴイ手がかりだ。行こう。マーズへ」
だが、ジェイドの胸は真っ黒いかたまりでふさがれた。
(マーズ。オレンジシティーの衛星マーズ……)
二百年前の痛みが、あのときのままの形でよみがえってくる。
アンバーが呼んでるのだろうか?
悲しくて、つらくて、耐えきれなくて逃げだしたけど、ジェイドの心は、今でもずっと、あの街のなかをさまよっていた。
あのときのまま、ジェイドの時間は止まっている。
(アンバー。さみしがりやの君を、長いあいだ、ひとりぼっちにしてしまった。帰らなけりゃね。君のもとに。今でも君が、おれの帰りを待ってくれてるんだとしたら)
帰ろう。アンバーの思い出の待つ、あの場所へ。
オレンジシティー……マーズへ。
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