五章 メモリー 1—4
ジェイドは混乱した。
(これは、あの研究所のバケモノと同一の祖先から派生した亜種だ。なんでだ? ドクは捕獲した哺乳動物の遺伝子をかけあわせて、あれらを造ったんじゃないのか? なんで、ここに同じ種族が……)
AIの働きがランダムに乱れる。
ジェイドをEDが
「ジェイド! 悩むのはあとだ!」
たしかに、そのとおりだ。
モンスターは群れで行動する習性があるようだ。廊下の端に一体が現れたと思うと、みるみる四、五体が集まってきた。
ジェイドたちを見つけて襲いかかってくる。
EDが翼をひろげて空中に舞あがる。
青白くスパークするガラスのヤリを左右にふるう。
まるで、死の天使だ。
ジェイドは、その息をのむ美しさに見とれた。
一瞬、見とれているあいだに、異様な姿のモンスターが同時に二体、ドサリ、ドサリと倒れた。一体はヤリのさきで喉を突かれている。もう一体はヤリの柄で骨がくだかれるほど強く叩きつけられ、感電死したのだ。
そのあたりで、ジェイドは我に返った。思考が復帰し、戦闘プログラムが立ちあがる。目標を残る三体にロックオン。あとはプログラムが状況を分析し、その状況下で、もっとも的確な行動を自動で開始する。
演算装置が答えをはじきだし、ジェイドのボディは指示通りに動いた。
ひろげたEDの翼のすきまから、エアガンを発射する。
着弾点を計算し、発射口の指の角度に微妙な変化をつけることで、それぞれのターゲットの眉間を同時に撃ちぬいた。
わずか、0コンマ一秒ほどの出来事だ。
「おおー! こりゃスゴイ! たいしたもんだよ。うん。たいしたもんだ。さすがはJタイプだな。一撃で三体たおしたぞ。
オニキスはおおげさに感心している。
が、ジェイドは、いい気分ではなかった。
戦闘モード中は、ジェイドの基本人格は、まったく無視される。
標的が消滅すれば、戦闘モードは自動解除されるが、その間、自分の体が別の誰かに、のっとられたような気持ちになる。
だから、竜を相手にするていどのときには、なるべく、このモードは使わないようにしているのだが……。
「ああ。まあ、五体までなら、同時にやれるよ。そのときの敵との位置関係なんかにもよるけど」
ぼそぼそ答えるジェイドを、青光りするエックスレイの双眸で、EDがふりかえる。
「きさま、私を狙ったな」
「狙ったのは、そっちのバケモノだよ。さっきは、あれが一番早く戦闘を終了させる軌道だったんだ……にらむなよ。おれのせいじゃない」
「じゃあ、誰のせいなんだ? きさまのAIは鉄クズか?」
「だから、悪かったって。そんなに怒らなくてもいいじゃないか。どうせ、おれのエアガンじゃ、あんたの強化ガラスのボディには、かすり傷一つ、つけられないよ」
戦闘モードになる寸前、EDの姿に見とれたせいで、Eタイプに強くあこがれるDタイプのチップが働いてしまったようだ。
以前、EDも言っていたが、交換できる専門知識のチップにも、ほんのりだが性格づけの要素がふくまれているのだろう。
ジェイドは自分でも卑屈に思える態度でちぢこまった。
いつものように、オニキスがあいだに入った。
「まあまあ、まあまあ。いいじゃないか。みんなが無事だったんだから。いや、君たちはほんと強いね。たよりにしてるとも。二人して、しっかり僕を守りたまえ。うむ。遠慮はいらない。守りたまえ」
オニキスにかかると、ケンカしてるのがバカらしくなる。おかしくなって、ふきだしてしまった。EDはまだ怒っているようだが。
ことによると、最新モデルの彼をさしおいて、旧式のジェイドが瞬時に三体の敵をたおしてしまったので、自尊心を傷つけてしまったのかもしれない。
ジェイドはEDの顔色をうかがい、話題をそらした。
「それにしても、なんなんだ? こいつら。もしかして、こんなのがウジャウジャいるのか?」
オニキスがうなずく。
「ああ。ウジャウジャいる。もっと小型の低級哺乳動物なんかもいるが、一番やっかいなのがさっきのヤツらだ。ヤツら、バイオボディのくせに、筋力は我々メタルボディなみに強い。長い牙は鋼鉄さえつらぬく。あの牙と爪で、時間をかけて非常シャッターに穴をあけたのさ」
すでに充分、脅威的相手だというのに、オニキスは「それにだ」と、まだ続ける。
「ヤツら、口から有毒ガスを吐きだす。僕らには関係ないが、バイオボディのオリジナルヒューマンは、このガスには、ひとたまりもなかっただろう。まちがいなく、ヤツらのせいで、オリジナルヒューマンは全滅寸前に追いこまれたんだ」
ジェイドは思う。
でも、これは同じだ。
ドクの研究所で見たクリーチャーと。あの暗い地下で生まれた、名もなき者たち。生を得た瞬間から、闇に葬り去られる宿命の失敗作。秘密の実験部屋で、切りきざまれるためだけの生物として生まれた。
エンジェルの、姉妹たち……。
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