四章 フューチャー 3—2


 ジェイドは感心した。


 ジェイド自身は、オリジナルから分身した型式一桁のJとAの配合から生まれたJAである。その後、自分でDとEのチップを足した。わりと古くに誕生したほうだ。


 しかし、それにしても、ジェイドが生まれたときには、すでにウォーターシティー、ツインシティー、サザンクロスシティー、サンダーシティーなど、現在あるシティのほとんどは建設されたあとだった。


 生物にとって有毒なガスは消え、植物が繁茂はんもして、星をつつむ酸素の層ができていた。

 生物だって、肺魚から進化した両生類が、竜の先祖となる爬虫類はちゅうるいへと枝分かれする分岐点くらいまでには到達していた。


 その古い記憶もほとんどはバックアップディスクのなかに収めてしまっている。


 こんな話を聞くと、EDってかぎりなく純血種に近いんだなと思う。


 純血とは、オリジナルにどれだけ近いかのパーセンテージの高さだ。

 EDは知識チップを一種、足されただけだから、パーセンテージは九十以上。


 ジェイドはそもそも二つの人格を混合された配合分身で生まれているから、五十パーセント以下だ。


「じゃあさ。ED。あんたは今でも、Eオリジナルと会ってるのか?」


 ジェイドがたずねると、EDは首をふった。


「Eはいくつかのシティ建設が竣工しゅんこうし、私たち分身だけでもやっていけると見こんだころに、どこかへ行ってしまった。ほかにも使命があるようなことを言っていたな。

 私の兄弟のなかには……EAからEZのなかには、Eを嫌って、早々に去っていった者もあった。私はDのチップが入っているせいか、彼にあこがれていた。造ってもらった恩もあるしな。Eが使命を果たしにいくと言ったとき、私も手助けすると言ったのだが、Eはこばんだ。この使命だけは、私が一人でしなければならないのだと言って」


「その使命って、なんだったんだろう?」


 ジェイドは無意識につぶやいた。

 それには、オニキスが答える。


「EDは聞かされてないんだ。しかし、この話はじつに興味深いよ。うん。興味深い。じつは、ほかのタイプはオリジナルを知っているという者も見つからないか、見つかっても、よくおぼえてないという答えが返ってきた。

 オリジナル自身にも、二、三タイプとは会えた。だが、EDの話のように、使命がなんとかと言ってるオリジナルは、ほかにいないんだ。Eはシティ建設をになったりしているし、ほかのタイプとは違う、特別な役割があったのかもしれない。今となっては、たしかめようもないが」


「EDの兄弟に、Eの行方を知ってるやつはいないのか?」


 EDが答える。


「今でも交流のある兄弟は、EAとEMだけだ。EMは私より強く、Eにつれていってくれと懇願こんがんした。が、それでも、Eはふりきって行ってしまった。EAもEMも、Eの行方を知らない。EMは今でもEを探している。手がかりがつかめれば、私にも知らせてくれる約束だ。ほかの兄弟は型式が変わってしまっていると、私にも兄弟だとわからない」


「まあ、そうだよな。おれだって、自分を造ってくれたJとAが、今、どこにいるのか知らない。型式が変わってたら、お手あげだもんな。ところで、そのEの使命っていうのは、オリジナルヒューマンに関係があることなのか?」


 素朴な疑問をなげかける。

 オニキスはヒャッヒャッと笑った。


「それは、わからん。なにしろ、Eに聞いてみなけりゃな。だが、まあ、そこで僕は、いったんオリジナル探しをあきらめた。次に注目したのが、このファーストシティーだ。EDの話を聞いて、古いドームシティなら、オリジナルの残した痕跡こんせきがあるかもしれない、それなら、なんといっても最古のシティだと思ってね——成果はあったよ」


 直前まで、ふざけた調子だったくせに、とつぜん真顔になる。


「いいか。これは重要なことだ。すこぶる重要なことだ。このファーストシティーの地下には、もうひとつの都市が眠っている」


「もうひとつの……都市?」


「うん。都市と言っても、今はもう住人は誰もいない。都市としての機能は、ほぼ完全に停止している。まあ、言ってみれば遺跡だ。ファーストシティーは、その遺跡の上に建てられているんだ。だが、注目すべきは、ここじゃない。もっと重大な意味を持つのは、この遺跡が、ほかのどのドームシティとも異なる構造をしているということだ」


「発展基盤の違う文明の産物ってことか?」


「いや。文明の系統は同じだね。ファーストシティーは明らかに、この遺跡の文明を踏襲とうしゅうする形で造られている」


「じゃあ、どう違うんだ?」

「わからんか」

「おれは考古学者じゃないんだ。わからないよ」


 ふふんと、オニキスは得意げに笑う。

 ジェイドはイライラしてせかした。


「じらすなよ。おっさん」

「おっさん言うな。年齢設定は変えられんが、僕はまだ若いつもりだ。君の設定と、たった二十しか違わんだろう?」


 ジェイドの年齢設定は二十四なので、四十四ということだ。


 何千万年と生きるロボットにとって、二十年はたいした年月ではない。が、それが精神年齢の設定では、かなり感覚が違うと思うのだが。

 とはいえ、ここは、ツッコムべきではないということは、ジェイドにも理解できた。


「ああ、若い。若い。だから教えてくれよ。どう違うんだ?」


「では、教えてやろう。このファーストシティーの地下にある遺跡は、ほかのドームシティにはない、ある機能をそなえている。今はもう、その機能は死んでしまってるが……。言ったろ? 我々は宇宙から来たのだと。宇宙船だよ。その遺跡は、宇宙飛行の機能をそなえている」

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