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三章 クリーチャー 2—1
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近づいてみると、岩肌の山脈は天然の
二、三百メートルの低い山並みだが、ぐるりと輪になって、十キロ四方の土地をかこんでいる。
エンジェルが言うには、ドクの研究所はその輪っこのなかにあるらしい。
「わたしたちは冠山って呼んでるの。たしか、岩のあいだに、ぬけ道があったと思う」
ジェイドはたずねた。
「ぬけ道か。出入り口の目印になるようなものは、なかったかな?」
「おぼえてない。そのころ、三つか四つだったもん」
「じゃあ、十二、三年前から、一度も研究所に来たことないの?」
「ダンが言うの。わたしは来なくていいって」
「研究で忙しいのかな」
EDが主張する。
「いっそ、山脈を越えていったほうが早くはないか? 見たところドームもない。侵入はたやすいだろう」
「そりゃ、あんたは飛べるからね。でも、エンジェルはどうするんだ?」
「もちろん、私がかかえていく」
だが、とうのエンジェルは首をふる。
「上はダメよ。岩山の向こうは牧場なの。だから、鳥や翼竜が入ってこないように、電磁バリアが張ってあるの。ダンが言ってた」
ジェイドは顔をしかめた。
「電磁波か。あれは、ちょっと苦手だな。いちおう、AIまわりには電磁波カットの特殊フレームを使ってるけど、ボルトが高いと手足がケイレンするからなぁ」
EDは笑っているから、完ぺきな処理をほどこしているのだろう。
ジェイドは肩をすくめた。
「ぬけ道を探すか」
地道な作業だが、岩盤をX線照射してみれば、内部に空洞があるかどうか、わかる。
このへんだったと思うというエンジェルの感覚をたよりに、調査範囲をひろげていく。すると、案外早く、空洞が見つかった。
大型の荷物を運びいれるためかもしれないが、予想以上に大きな空洞だったのだ。綿密に調べるまでもなく、ひとめでわかった。
「すごいな。このぬけ道、洞くつに手をくわえたんだろうか? それにしては、石灰岩の地質じゃない。こんな広い空洞が自然にできるとは思えないけどな」
「道が直線で続いている。人工だろう」と、ED。
「だとしたら、もっとスゴイ! こんなの個人の隠れ家っていうより、ドームシティーなみの造りだ」
おどろくのはスケールの大きさだけではなかった。
まもなくわかったが、ドクの研究所は設備もドームシティーに負けていなかった。
空洞のある場所で、出入り口を探して岩肌をなでていた。かすかな電力の流れを感じるくぼみを見つけた。さわっていると、インターフォンがつながった。どこかに監視カメラがあるのだろう。
「ジェイドか。よく来たな。入ってくれたまえ」
どこからか、ドクの声が聞こえる。
DタイプはEと同じく、大仰でえらそうな話しかたをする。が、性格は物静かで思慮深く、ときに独善的につっ走るEを抑える役にまわることが多い。
ちょっとAとMの関係にも似ている。
が、Dの場合は、ただEの手下というわけではない。Eのみえっぱりな性格を上手にあやつり、自分の意見にそわせているようなところもあった。
とはいえ、EがDにいだく友情より、DがEにいだく友情のほうが、圧倒的に厚い。大筋ではEに逆らえない。
このツータイプの関係は、うまくバランスがとれている。
エヴァンとドクも、そうだった。
「つれもいるんだけど、かまわないかな?」
「かまわんよ。君がつれてきた人間ならな。今、ロックを外す」
モニターが閉じる。
同時に、ぬけ道をふさいでいた岩壁が、まんなかから割れた。スライド式のハッチだ。
ジェイドたち四人がなかへ入ると、ふたたびハッチは音もなく閉じた。
内部に、もう一枚、金属製のドアがあった。
ここでジェイドたちは念入りに、チリやホコリを吹きはらわれた。ガーデンシティーのゲートでおこなわれる処置と同じだ。
ガーデンシティーのように植物の交配にかかわるわけでもないのに、えらく厳重だなと、ジェイドは思った。
それがすむと、ようやく第二のゲートもひらいた。
ほのかな節電モードのぬけ道。通路の左右には小さなドアがいくつもならんでいる。食料庫、薬品庫、機材室、調整室などと、プレートが貼られている。エアボートなどの乗り物の格納庫もあった。
「ウソだろ? これ、ほんとにドク一人で造ったのか? これだけの施設を造る材料を集めるだけでも、すごい時間と労力が必要だぞ」
個人での無断鉱脈採掘は禁じられている。
鉱石によっては、一定量までなら、採掘許可を得ることができるが、それはボディ作成用だ。たいした量ではない。
これだけの施設なら、少なくとも数人の協力者がいなければ築けない。
(やっぱり、この設計はEタイプがしたんじゃないかな? 専門分野の知識がないと、この造りはムリだ。ドクはEのチップを持ってないし……エヴァンかな?)
考えながら、ぬけ道を歩いていくと、五十メートルほどで、またハッチがあった。
ジェイドたちが前に立つと、自動でハッチがひらく。明るい電光があふれだす。
ここからさきは、いよいよドクの研究所だ。
二十メートル以上の広い一室。
壁の四方がすえつけ型の大型コンピューターになっている。
室内には多くの実験器具がならび、薬品の匂いがしていた。実験動物の臓器が培養液につけられていた。
これを見たかぎりでは、ドクの研究がなんなのかわからない。
入口から反対の壁に、さらに三つのハッチが見えた。奥に続く部屋がある。
なかに、ドクがいた。
なにやらデータ解析に熱中している。
ドク一人では手がたりないらしく、銀色の装甲板むきだしのサポートロボットが数体、
右の壁ぎわに、これらのサポーター用調整機が八つならんでいた。
「ひさしぶり。ドク。順調かい?」
ジェイドが声をかけると、ドクはふりかえった。
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