三章 クリーチャー 1—4
竜ではない。
ジェイドが見たこともない哺乳動物だ。全長が七、八十センチ。四つ足歩行。
とっさに、アコースティックブラスターで応戦し、一匹、しとめた。が、もう一匹は銃の音波がとどかない横手から
エンジェルは、まだ眠っている。
さけられない。
「くそッ!」
アコースティックブラスターを向けたが、まにあわないことはわかっていた。
頭のなかが真っ白になって、フリーズしてしまいそうな緊張を感じた。
その瞬間、EDの爪が銀色に光った。
たった三センチの厚さで、直径十キロの
その五本の爪がナイフのように伸び、獣の喉笛を切りさいた。鮮血が水玉もようを描いて、エンジェルの白い肌の上にとびちる。
EDは血がエンジェルにふりかかる前に、片手でエンジェルを抱きあげた。もう片方の手には、切りさいたばかりの獣をわしづかみにしている。
そのまま、空に舞いあがっていく。
「ジェイド! 荷物を持って、追ってこい!」
一方的に命じて、EDは空のかなたへ飛びさる。
「チクショー!」
ジェイドは襲いくる獣を次々、アコースティックブラスターでマヒさせながら、片手でリュックをつかんだ。
「パール! 逃げよう。最大出力だ!」
「ラジャー!」
獣たちは血の匂いに猛り狂うらしい。
仲間がやられても、
ジェイドはジェット噴射を使って、かこみをぬけた。
EDのように長時間、連続的な飛行はできないが、ジェット噴射を使えば、一度の跳躍で、二、三十メートルは跳べる。
そのあとは、時速三百キロの最大出力で走り続けた。じきに獣は見えなくなり、十分も走ると、
「ここまで来れば安心か」
獣は追ってきていない。
どうやら、あきらめたようだ。
かわりに、節電して蓄積していた総電量は、三十パーセントも減ってしまった。ジェット噴射や最大出力は、いざというときには役立つ。しかし、電力を大幅に食う。ほんとに万一のときのための切り札だ。
「くそッ! EDのやつ。あいつ、獣がよってきてること、わざとナイショにしてやがったな」
悪態をつくと、ジェイドの目の前に、大ソテツのてっぺんから、ドサッと死体が落ちてくる。
「襲ってくる獣を殺すことは、神との盟約に反しない。これで、エンジェルの朝食の肉が手に入った」
「ああ、そうだよ! あんたの言うとおりさ。チクショウ!」
「品のない言葉を使わないでくれたまえ。エンジェルに聞かせたくない」
ソテツの上から、エンジェルをかかえたEDが降りてきた。ふわりと降りたち、寝ぼけまなこのエンジェルを地面におろす。
「夜明けまで、まだ時間がある。エンジェル。君は眠っていなさい。獣は私が朝までに料理しておくから」
エンジェルは言われるままに、草むらによこたわる。EDのマントを体に巻きつけた、イモムシみたいな姿に、ジェイドはホッとした。
エンジェルが寝息をたて始めると、EDは低い声を出した。
「見なれない獣だな。こんな大型の哺乳類は初めて見た。私の知識のなかの哺乳類より、かなり進化している」
「ああ。それは、おれも思った」
「この周辺、植物の種類も多い。なんだか、異常だ」
「…………」
この世にいるはずのない殺人者。
動物のようなバイオボディの少女。
一足飛びに進化した獣。
すべてが、おかしい。
何かが狂っている。
言いようのない不安がのしかかってくる。
もしかしたら、ジェイドは自分が思っている以上に、とんでもないことに首をつっこんでいるのかもしれない。
そんな気分のまま、夜をすごした。
翌日。
「エアボートで半日なら、今日中には目的地につくだろう」
EDの言葉どおり——
草原のかなたに、大きな岩山のつらなりが見えてくる。
「あそこよ。ダンの研究所」
エンジェルの指は、まっすぐに岩山をさしていた。
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