二章 チェイサー 2—4


 二人で相談して、防火防水のキャリーケースと、アコースティックブラスターを購入した。


 生物の脳に超低周音波をぶつけて一時的にマヒさせる、アコースティックブラスターは、哺乳類にも竜にも効果があるので使い勝手がいい。これなら、進路をふさぐ竜がどくのを待って、むだな時間をすごすこともない。なにしろ、こっちは神との契約で、向こうが襲ってくるまで攻撃をくわえてはいけないのだから。


 準備がととのい、ジェイドたちはウォーターシティーを出発した。

 もしかしたら、犯人はジェイドをつけているのではないかという懸念もあった。だが、注意していても、尾行者は探知できなかった。

 ジェイドのレーダーにひっかからない、ギリギリのところからつけているのだとしたら、ジェイドには気づきようもないが。


 たびたび、ふりかえるジェイドに、パールがたずねてくる。


「何か感じるの?」

「そうじゃないけどね」


 旅は順調だった。

 何度か竜や小型哺乳類に遭遇したが、アコースティックブラスターのおかげで、かわして進むことができた。


 ウォーターシティーを出て二日。

 亜熱帯の密林は終わった。

 まばらなソテツ。見渡すかぎりの草原が続いている。

 ながめがいいので、遠くにいる竜の巨体が、小山のようにハッキリと見える。


「ブラキオサウルスかしら」

「いや。ティタノサウルスだな。ブラキオサウルスは近ごろ、ほとんど見ないよ。どっちにしろ、おとなしい草食の竜だ。襲ってはこないよ」


 ああいう大型の竜より、かえって群れで狩りをする小型の肉食竜が、やっかいだ。


 しかし、そのあと数日、そういう竜に会うこともなかった。

 だから、油断した——というわけでもなかったのだが……。


 太陽光発電が動力のジェイドたちは、夜間は休息したほうが効率がいい。

 しげみの奥などでは、小型の竜にかこまれたとき対処がしにくい。

 ジェイドたちは草原のまんなかに、ごろんと、よこになり、その日の休息をとることにした。


 空は澄みきり、銀粉をまいたように星がまたたいている。

 まんまるの月が、星たちの王のように、空のまんなかに、どっしりとかまえていた。


 オレンジシティーから見る赤い人工衛星マーズも悪くないが、青白い月の光は、どこかなつかしい。

 遠い旅路の果てに、ようやく、わが家にたどりついたような心地だ。


「明日にはファーストシティーにつくな」


 ファーストシティーは、その名のとおり、この地に最初に造られたドームシティーだ。

 オリジナルの二十六体が暮らしていた由緒ある都市である。


 しかし、他の都市が発展するにしたがって、さびれていった。ドームシティーとしては小型だし、設備も旧式だ。ゆいいつの利点といえば、各タイプの基本形の骨格フレームを製造する工場があることだ。


 すべての人間が、ここから生まれ、ここへ帰ってくる。

 言わば、聖地だ。


「今夜はもう電力を落として、ゆっくり休みましょうよ」

「ああ。おやすみ」


 ジェイドたちが休止モードに入って、しばらくしてからだ。

 なにか、ものすごいスピードで飛来するものが、二人に向かって近づいていた。


 節電モードではあるが、完全に回路の働きをシャットダウンしてしまったわけではない。ジェイドはその物体をレーダーで補足し、目をあけた。


 そのときにはもう、飛来してきたものは、ジェイドにとびかかってきていた。

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