二章 チェイサー 2—3


 ざっと見て、三十人ほどの人間がより集まっていた。みんな、不安げな顔をしている。


「ほかの船は、どうだろう?」

「ほかの船なんて、もう何世代も前に交信がとだえてる。あてにはできないさ。なんとか、われわれだけでも辿りつかなければ、人類は滅亡する」


 早口で言いあっているのは、EDやドクたちだ。


 ジェイドはすみのほうで、パールたちと立っていた。パールと、もう一人は基本プログラムでJと相性のいいTタイプだ。

 ジェイドたち三人は、おそろいのユニフォームみたいなものを着ている。武器をもっているのは、ジェイドたち三人だけだ。


「おい、きさま。なんのためのコマンダーだ。キサマたちは、われわれを守るために存在している。もっと命がけで守れ。そうすれば、せめて第二セクションは封鎖しなくてすんだかもしれないのに」


 とつぜん、EDがジェイドを責めたててきた。

 が、ジェイドは武器を下にさげたまま、直立不動だ。


「まあまあ、おちつけよ。エド。しょうがないさ。いくらコマンダーでも、できることとできないことがある。あんな生物兵器が相手じゃあ……僕たちだけでも、よく助かったほうだよ」


 ドクになだめられて、EDはジェイドに侮蔑の目をむけ黙りこんだ。


 そのとき、とつぜん気づいたように、アンバーが歩みだしてきた。


「あなた、ジュンね? ね、そうでしょ? わたし、アン……よ。おぼえてない? 小さいころ、いつもいっしょに遊んだでしょ?」


 むろん、ジェイドはおぼえていたが、答えなかった。

 すると、EDが冷たい声でさえぎった。


「この男はAIコマンダーだ。人間じゃない」


 ズキリと胸の奥にその言葉がつきささる。


 ちがう。おれは人間だ。アン……を愛している。


 夢のなかでは次々に場面が移っていく。

 アンバーの笑顔や泣き顔、すまし顔、二人で築いた思い出が、あのオレンジシティーでの終末にむけて集束していった。


 悲しみで胸がちぎれそうになって、目ざめたときには、最初に見た夢は、記憶のかなたに忘れさられていた。


「おはよう。気分はどう?」


 パールがとなりの調整機から出て、ジェイドをのぞいていた。


 ジェイドはオイルの涙を手でぬぐい、調整機をぬけだす。

 気分なんて、最悪に決まってる。

 でも、そんなこと言ってるヒマはない。


「ガーデンシティーに向かうなら、性能のいいスタンガンか、麻酔銃がほしいな。草原には竜より、すばやい哺乳類ほにゅうるいが多いだろ」

「集団で襲ってくるやつが、やっかいね。でも、武器を買うお金はあるの?」

「まだ、そのくらいはあるさ。前にあまったパーツなんかも少し持ってきたし」


 ふとももにある備品スペースをさしてみせる。ふだんは応急処置が必要なときの工具を入れているところだ。


「そう。でも、ここはコレでまにあうはずよ」


 パールがバストの備品スペース(女の子の特権だ)から、いくつかのパーツをとりだした。キューブシティーの生産工場で配給されるパーツだ。


 各都市の無人オートメーション工場で生産されるパーツは、工場ごとに部位がことなる。

 誰でも一定量まで配給を受けられるが、自分のシティのパーツなど、誰もありがたがらない。

 当然ながら、遠くのシティや、危険な場所にある工場のパーツにレアリティがつく。


 なかには戦闘力が低く、旅にむかないタイプもある。そういう者たちに代わって、都市から都市へパーツ集めを商売にしている“渡り屋”がいる。渡り屋には、戦闘にたけたJタイプ、Tタイプ、女性型ならPタイプが多い。

 あとは機械工学にすぐれたEタイプも戦闘は得意だが、彼らは渡り屋は、したがらない。


 ジェイドはアンバーとの生活が大切だった。

 だから、渡り屋にはならなかったものの、新しいボディーのためのパーツ集めは、ジェイドの役割だった。


 パールはもと渡り屋だ。

 キューブシティーでジェイドに出会って、やめたのである。


「さすがは、もと渡り屋だね。そうか。同じパーツでも、シティによって交換レートが変わるわけか」


「キューブシティーとウォーターシティーじゃ、となりだから、たいしたレートにはならないけどね。ウォーターシティーは水中にあるから、来るのをいやがる人が多いでしょ? けっこう高く売れるのよ。あとで、ここの工場で配給をもらっていきましょ」


 ウォーターシティーでは、きれいなガラス製のパーツを配給してくれるので、各地で人気も高い。とくに眼球に使う各種のレンズなどは。


「じゃあ、それを運ぶためのキャリーケースもいるな」


 話しながら、市場へむかう。

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