一章 マーダー 2—3
その日は、そのままパールと別れて、ジェイドは自分のコンパートメントに帰った。
帰ると、まっさきに、ジェイドは自室の端末に自分のケーブルをつないだ。マザーコンピューターにアクセスする。
エヴァンが殺された時間、市民がどの場所にいたのか、マザーコンピューターなら把握している。
すべての市民が体内に埋めこんでいるIDプレートの反応が、
とはいえ、個人情報はプライバシーの侵害になる。市民には公開されていない。
データは何重にも保護がかかっているし、ちょっと一般人には手が出せない。万一、ハッキングがバレると、市民権剥奪だ。シティから追いだされてしまう。
なので、ジェイドは無難な情報だけ調べた。
竜などの危険生物が侵入しないよう、シティのすべての出入りは厳重にマザーに管理されている。その情報だけは市民にも、安全のため公開されていた。
エヴァンが殺された、あの時間の前後、シティを出入りした人間がいないかどうか、いたとしたら、それは誰なのか。
だが、その時間、ゲートを使用した人間はいなかった。
それ以前にシティに入った人間も、ここ数日ない。
もっとも最近にゲートが使用されたのは半年前。そのとき、キューブシティーを出ていったその住人は、まだシティに帰っていない。事件とはなんの関係もない。
ついでに調べると、現在、キューブシティーには、他のシティからの客は滞在していなかった。
(ということは、少なくとも外部の人間の犯行じゃない。犯人はこのキューブシティーの住人だ)
アンバーが殺されたのは、オレンジシティーだ。
ならば、犯人は二百年前、たまたまキューブシティーからオレンジシティーに来ていた旅行者だろうか?
それとも、ジェイド同様、あのころはオレンジシティーに住んでいて、その後、キューブシティーに引っ越してきたのか。どちらかだ。
だが、なんとなく気にいらない。なんだか偶然すぎる。
世界中には、ほかにもたくさんのシティがあるのに、なぜ、犯人は的確にジェイドの……エヴァンのあとを追ってこられたのだろう。
それに、エヴァン殺しの犯人の目的が、アンバー殺しを察知したエヴァンの口封じだとしたら、なぜ、今日まで、ほっといたのだろうか。
エヴァンはあのとおり、アウトローとしてだが、キューブシティーでは目立つ存在だった。
少なくとも半年より前に、犯人はキューブシティーに移住していた。それなら、今日までエヴァンを探しあてられなかったはずはない。
一日の多くをぼんやりと過ごしていたエヴァンを殺すことは、わけなかっただろうに……。
たとえば、自分が移住してきたあと、すぐにエヴァンが死ぬと誰かに怪しく思われるかもしれない——と、用心したとしてもだ。
犯人としては、いつ、エヴァンの口から、秘密が暴露されるか心配ではなかったのだろうか。
半年も期間を(あるいは、それ以上の長期にわたって)置いていたのは、不自然な気がする。
(なんか、すっきりしないな)
まあ、悩んでもしかたがない。
とりあえず、エヴァンのベースキャンプ探しだ。そこから何か新しいことがわかってくるだろう。
ジェイドはマザーコンピューターに依頼して、マーブルに通話申しこみをした。
マーブルがエヴァンと別れたあと、どこへ行ったのか、移住さきを知らなかったのだ。
幸い、数分後、連絡がついた。
マザーの回線にジェイドのケーブルをつないだままで待つ。
まもなく、ジェイドの視界が二重にだぶって見えるようになった。
ジェイドの見ているものと、マーブルの見ているもの、両方が見えているのだ。ジェイドの回路と、マーブルの回路が、マザーを介してつながっている。
「やあ、マーブル。ひさしぶり」
「ひさしぶりね。お元気?」
マーブルはあれでよく勝気なアンバーの友人をやってられるな、と思うほど、おとなしい物静かな女性だ。
アンバーとは、女王と侍女みたいなところがあって、ときどきジェイドは申しわけないような気分になったものだ。
「まあ、なんとかね」
そう言ったあと、ジェイドは言葉が続かなくなった。
マーブルは結果的には、一番パートナーの助けが必要なときに、エヴァンを残して去っていく形になったけど、エヴァンを心から愛していたのは事実だ。
エヴァンの死を知れば、マーブルは、なげき悲しむだろう。
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