第86話 がちゃ

 吾輩はネコである。

 名前はちび太。



「くっ、なんということだ……俺としたことが、俺としたことが……! ガチャにお金を使ってしまった……!」


 言うや否や、ご主人様がバターンとベッドに倒れ込んだ。


 憐れ、最近はやりのガチャの魔力に、ご主人様もなけなしの資金吸い寄せられてしまったのか……。


 だがしかし。

 知っての通りご主人様はソシャゲをやっていない。


 ガチャとはソシャゲのランダム排出の課金要素であるため、つまりソシャゲをしていないご主人様はそもそもガチャれないはずなのだ。


 なのにガチャとはこれ如何いかに――?


「帰り道にさ、めっちゃ面白い猫のフィギュアのガチャガチャがあってさ。思わず回しちゃったんだよ。ガチャガチャなんて10年ぶりくらいでさ。懐かしさと楽しさで、気がついたら6000円も使いこんでいたんだよ……しかもコンプできていないときた!」


 リアルガチャだった……。


「ああ、コンプに1個足りないこの悔しさを俺はどこにぶつければいい!? ……6000円も使っちゃったから今月ピンチだし……食費か、食費しかないな……。しゃーない、給料日まで昼飯を抜こう……朝ごはん多めに食べればどうにかもつだろ……しかしあと1個あと1個……! 悔しい!」


 ご主人様はひとしきりわめき転がると、ノートパソコンを開いて日課の執筆を開始した。

 どうやらこの悔しさは執筆で晴らすことにしたらしい。


 今日も今日とてご主人様は平常運転。

 しかし、しばらく昼ご飯抜きになってしまったご主人様なのだった。

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