第45話 え

 吾輩はネコである。

 名前はちび太。



「よーしちび太、もう動いてもいいぞー」


 ご主人様のお許しを得た吾輩は、凝った身体をほぐすために、ぎゅーっと伸びをした。

 人間がいわゆる「猫のポーズ」と呼ぶアレである。


 いったい何をしていたかというと、ご主人様のために1時間以上も絵のモデルをしていたのだった。


 なんでも、


「これからの作家に求められるのはマルチ性なんだよ。絵を描いたり歌ってみたり、SNSで発信したり、動画を配信したり。色んな能力が求められるんだ。それに、せっかくならWeb小説の表紙も欲しいしな」


 とのことだった。


 そして、

「見てみろちび太、お前の絵だ」


 そう言って見せられた絵は――まぁその、なんというか普通に下手だった。


 絵心のない人が一生懸命描いたことだけはわかる、そんな絵だった。


 これには吾輩も、どう対応したものか苦慮するところである。

 とりあえずご主人様の足下にすりすりをしてみた。


 すりすりー、すりすりー。


 そんな吾輩をご主人様は抱き上げるとボソッと呟く。


「……やめたほうがいいよな、うん。冷静になって考えてみると、この先、絵の練習に必要な時間だけで執筆時間がゼロになってしまう……」


 絵描き能力を習得したマルチ作家としての道を諦め、小説家としての道を改めて志すご主人様なのだった。

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