第7話 トリックスター
偽物はお前、本物は俺。
「会長、本当にこのまま警察に連絡しないおつもりですか?」「ああ。」
広々とした部屋の中心、2人の老人が話す声。
「わが家のセキュリティは安全だ。あんなばかげた怪盗・トリックスターなんかに宝石・聖母の涙は渡さん。」
ちりん、と窓の下にいた黒猫の鈴がなった。
「‥ばかげた怪盗か、」
その鈴から聞こえてくる声を耳につけたインカムで聞きながら呟く少年。
「言ってくれるな。」
真っ暗な暗闇の中、真っ白の服を纏い金色の髪を輝やせ、笑う。
「あと1分か‥‥。」
カチカチと腕につけた時計を確認して笑う。
「あのでぶで傲慢な爺にトリックスターのすごさを思い知らせてやる。」
にやりと少年が笑い暗闇に真っ白な三日月が浮かびあがる。
‘ドッカーン’
大きな破裂音と同時に少年が煙に向かって風船を投げた。それは煙の中でもくもくと人の形をとる。
「侵入者だ!」「いたぞ!」「捕らえろ!」
ばたばたと警備員が少年と反対に向かって走る。
「さてと‥‥」
ひらりと軽やかに身を踊らせ少年は屋根から飛び降りた。白いマントが風をまといばさばさと鳴る‘がしっびりりっ’
2階の途中まで落ちた時壁から突き出ていた杭が少年の白いマントを捕らえた。
「さすが、エルフは仕事が正確だなっと、」
うまく身体を捻り近くにあった窓に手をかける。
「誰もいませんように!」
囁くように祈りながらマントを外し腕の力で勢いを付け窓をぶち破った、
‘ドッカーン’
そのタイミングを見計らったかのように第2の爆発音が響いた。少年は蹴りの勢いで部屋の中に転がり入った。
「ふぃー‥計算通り!」
やれやれと汗を拭き少年は部屋の中を見回した。
「‥‥まるで倉庫だし」
がらくたばかりの部屋の中にぽつんと一つある物。
「いや、本当エルフは頼りになる!この仕事の報告の時に美味しい饅頭を持ってってやんなきゃ。」
警備員が着る服に着替えながら少年が呟く。
「さてと‥行きますか。」
帽子を目深に被りゆっくりと扉を開け外に出た。
‘ドッドッドッカーン’
数回の爆発音。さっきとは違う方向でなる轟音。
「旦那さま!近くで爆発が!」「避難してください!」「旦那さま!」
ばたばたと扉を叩く警備員の声を聞きながら部屋の中で少年は笑う。
「約束通り、聖母の涙はいただいたぜ。あばよ。」
窓を開け、下にいた猫を抱える。ばらばらなんて音とともに上空には何代ものヘリコプターが舞う。
「さすが、エルフ!時間ぴったり!さすが、俺!仕事が的確予定通り!」
叫んで少年は空から下りて来た梯を掴んだ。
「怪盗トリックスターに盗めないものはない!」
いえーいなんて笑いながら少年をぶら下げたヘリコプターは空高くに舞い上がりやがて闇に消えた。
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