第6話 インド神話


好きになりたくなかった。

「はぁー‥」

最近の俺には大きな悩みがある。かなり大きな悩みだ。 歴史変わっちゃうくらいすげー悩み。

「クリシュナ君?」

ヤベーきた!まるで天使のようなこの声。聞けたら1日ハッピーみたいな。

「おっす、シーター!」

振り向くとそこにはこの世の者とは思えないようなかわいらしい少女!そうです、彼女が俺の愛しい人マイラバーシーター

「どうしたの?今日は早いね。」

「あぁ、まぁ」

にやにやする。口元が勝手ににやにやするよー。

「ねぇ、今度クリシュナ君の家に遊びに行ってもいい?」

「えぇっ!?」

いや、どうだろうね。それはーまずいだろうね。

「いや、あの‥俺ん家すげー汚いし臭いから!」

ばかちん!汚いからとか俺、どんな家に住んでんだよ!俺も臭いじゃん!

「あははっ、クリシュナ君って本当面白いね。」

ヤベー!その笑顔犯罪!まさにモナ・リザの微笑。

「そうかな?はははっ」

すぐ近くにある、彼女の可愛い顔。‥小せぇー。

‘ピリリッ’

「?」「!!」

やっば、携帯がっ!

「何?何が鳴ったの?」

キョロッとした大きな瞳が俺を見てる!心臓バクバクしてるよ。ヤバイ!

「いや、何かな、ちょっとごめん!」「?」

ダッシュで近くのトイレに駆け込み、電話を取る。

「もしもし?今、今帰るから!」

一方的にそれだけを告げると電話を切り、ポケットから時計を取り出す。

「えーっと、大体1時間前に戻ればいいか。」

呟いて時計の針を戻す。すると辺りの景色が不自然に歪んだ。

「また明日、シーター」

小さな声で呟いて外にいる彼女に声をかけた。絶対に聞こえないだろうけど。なーんて。

‘キューン’

古びたトイレだった辺りの景色が一瞬にして見慣れた自分の部屋になった。

「ただいまーっ」

扉を開けるとそこには一緒に暮らしている友達。

「おかえり、まーた愛しのハニーに会ってたのかよ?いーかげんにしろよ、クリシュナ?わかってんだろ?その子は‥「わーかってるよ!」なら」

わかってる。頭ではわかってるけど。

「止まんないんだよ。」

会えば会うほどどんどん好きになるし。好きになればなるほど会いたくなる。いたちごっこだ。

「仕方ないだろ、好きになっちまったんだから」

不意に視線を合わせた先には俺が小さい頃家族で撮った唯一の写真。

「何もなければ、いいだろう。」

そこに笑う親父とお袋。

「何もしないでそばで笑ってるだけなら、別に、」

お袋の記憶は俺にはない。俺が小さい頃に死んだ。

「出来るのか?お前に。」

だから俺はお袋のことをを知らない。

「あぁ。出来るよ。」

その写真を伏せて呟いた。

「そうじゃないと、俺の存在が消えちまうから。」

そう俺の愛したあの子は死んだ俺の母親だった。

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