第4話 日本神話


あーあ、という須佐之男の暢気な声と天若日子の悲惨な悲鳴が重なった。

「マジでキレてるよ。あっいつ、可哀相だな。」

「全くだな、ご愁傷様。」

ため息を吐いてまた視線を目の前にうつす。そこに広がる光景は異様そのもので誰も何も言えなかった。

「うわっ、なんだ?」「クラクラするぞ。」

目の前を見ていた何人かがそう言って倒れた。

「バカだな。弱いくせに参加するからだ。」

「仕方ないだろ、あいつマジになると周りへのセーブも効かなくなるからなぁ。」

チラッと天照の手の上で回る鏡を見つめた。天照の顔ほどの大きさがある鏡。ぐるぐると凄まじい速さで回る鏡の上に立ち上がり浮かび上がるビジョン。真っ暗な中に霞む岩戸‥と、体が浮き吸い込まれるような感覚

「っ――」「月読!?」

ぐいっと腕を掴まれて引き戻される。

「あっぶな、ありがと」

「大丈夫か?あんま見ねぇ方がいいぜ。」

ぶんぶんと頭を左右に振り頭を覚醒させる。油断していると危ないな。

「あいつあんなキレたのいつ以来だ?」

尋ねられた質問には答えずに天照を見つめる。

「笑ってんぞ?あいつ。大丈夫かな、天若日子」

楽しそうに笑いながら佇む天照の前には狂ったように悲鳴を上げ、地をのたうちまわる天若日子。

「早く止めないとこっちの奴らまで死ぬぞ。」

須佐之男の言葉にそちらをみれば、確かに天若日子と同じように地に倒れ白目を向いている者、悲鳴をあげる者。

「まあそうすれば、敵が減って楽になるけど。」

口角を上げて妖しく笑う顔はなるほど確かに少し天照に似ていないことない。俺もこんな風に笑うのかと思うと寒気がした。

「それにしてもあいつ今回の大会のルール覚えてっかな。」「さあな。」

それより暴走が止まるかどうかの方が重要だろ。

「‥なあ、天若日子‥生きてるか?」「さあな」

さっきからぴくりとも動かない。あいつルール忘れるくらいにキレたのか?

「‥‥あ、そうだった。」

ポツリと呟かれた言葉。

「殺しちゃいけないんだ。忘れるところだった。危ない危ない。」

いつもよりも幾分高い声キレた時のあいつの特徴。

「だから言ったでしょ?あなたに指一本触れないで勝つことが出来ますってさ。‥よし終わり。」そういって天照はスッキリとした表情で俺達の方へかけてくる。鏡は脇に抱えている。もう平気だ。

「‥天照、バッチは?」

須佐之男が呆れたように天照に告げる。

「あ!?しまった!」

ガビッなんて顔をして天照は天若日子の胸元から小さなバッチを剥がした。

「はい、審判さん。」

それを審判に渡したら‥

「しょ、勝者天照!」

彼女の勝利が決定した。さあ次の相手は、誰だ?

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