第3話 アステカ神話
どの世界がお好みですか
「ボトル入りまーす!」
赤いカマシュトリがまだ、声変わりしたての少年らしさの残る声で叫んだ。
「さすがは、キング!」
少し離れた席にいた風の神ケツァルコアトルがその長い指をパチンと鳴らし白い歯を見せて笑った。
「それでは我らがキング テスカポリカさん!」
スポットライトをさんさんと浴び、真っ白なスーツで現れたのはこの店ナンバー1ホストの黒いテスカポリカだ。
「ボトル、ありがとうございます。夜の魔法使い黒いテスカポリカです。」
余裕の態度で席に座るテスカポリカを見つめ無慈悲なユィツィロポチトリは無表情で笑った。
「全く、うちのキングは目立ちたがりだな。」
「ユィツィロポチトリのためなら、私ボトル入れても良いよ?」
「いや、」
さらりと今流行りの香水の香がする髪を撫でる。
「俺は今のまま、お前の傍にいたいからナンバー2がいい。」
「ユィツィロポチトリ‥‥」
見つめられると誰もがくらりとするほど深い色をした瞳。しかしその色は光の当たり具合により変わり同じ色に留まることはしない。まるでユィツィロポチトリ自身のように。
「すっげーな、キングは!俺も早く追い付きてーよ!」
「あら、カマシュトリ?それじゃぁ、私がボトルをいれましょうか?」
「本当?やったー」
にこにことまだ、幼さが残る顔をくしゃりと崩してカマシュトリは笑う。
「え?もう帰る?もうちょっと話そうぜ。次はしばらく来ないんだろ?」
まるで女性のような顔立ちをしながら言葉遣いはいたって乱暴なケツァルコアトル。そして。
「ボトルありがとう。」
優雅に笑いそしてさりげない気配りも忘れない。ナンバー1ホストのテスカポリカ。彼らが働くのは女性たちの夜の遊び場ホストクラブ。今夜もまた、優雅にそして水のようにたくさんのお金が店を舞った。
「‥‥うぇー‥気持ち悪い。ヤバ吐きそう‥‥」
洗面台に顔を突っ込み唸るように喋るはナンバー1ホスト、テスカポリカ。
「飲めないのに無理するからですよ。キング」
「大丈夫ですか?キング。」
さすさすと背中を摩り、ペットボトルを差し出すカマシュトリとそれを見つめ寝る支度をするケツァルコアトル。
「仕方ないだろ。いらないって言うのに入れるんだから、う、うぇーっ」
「それは、自慢ですか?キング?」
「これが自慢に聞こえるか?ユィツィロポチトリ、‥おぇー」
ソファに座り新聞を読むユィツィロポチトリが洗面台を見ずに笑った。
「えぇ、とびっきりの自慢に聞こえますよ。」
「じゃ、俺は寝ますね。」
ばさりと新聞をたたみ、ユィツィロポチトリが風呂場に入り、ケツァルコアトルは寝室へと向かう。
「キング、大丈夫ですか?」
「あ、ああ。平気だ。お前ももう寝ろ。な」
油断すれば、何かが出そうな口を押さえ、テスカポリカが言った。そういかなる場合でもさりげない気配りを忘れないのがナンバー1ホストの条件
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