第2話 北欧神話


そうだ、俺は確かに愛していたんだ。彼女の事を

「フレイ?どうかしたの?さっきからぼーっとして。」

「え?あ、いや」

ふるふると頭をふる。いけない、また考えてた。

「またオーディンに何かどやされたの?確かにオーディンは厳しいかもしれないけど‥それは、フレイのことを考えて言ってくれているんだよ?」

本当に自分のことのように心配してくれる優しい妹。俺のたったひとりの大切な妹。そして俺の、

「あ、そうだ。今日の剣の稽古には行けないかもしれない。ごめんね。」

「え?なんでだよ?今日なんかあんのか?」

「ううん、ないけど‥ちょっとね。」

「なんだよ、ちょっとって!感じ悪いぜぇ。」

あの時は本当に馬鹿みたいに幼くてお前のことをちゃんと見てやることが出来なかった。

「とにかく。今日は遅くなるから。」「うぃー」

いつも一緒にいるのが当たり前すぎて。いつまでも一緒にいられると根拠もないのに思っていた。

「‥‥え?フレイヤがロキと一緒に出掛けた?」

城に帰ってすぐ言われた言葉に俺は愕然として。

「はい、フレイ様がお帰りになる少し前に。」

どうしてロキなんかと?

「どこに行ったんだ?」

「さあ?そこまでは。」

「なぜ止めなかった!」

ロキがどんなやつかは知ってるはずなのに!フレイヤがどうなるかっ!

「止めると申しましてもフレイ王子‥フレイヤ姫はロキ様の婚約者ですよ。ともにお出かけになるのは当然かと‥‥?」

聞き覚えのない言葉に体が嫌な汗をかく。婚約者?

「な、んだよ?婚約者って‥?いつ決まった?」

「お聞きになられてないんですか?」

「いや、」

頭がガンガンしてきた。フレイヤフレイヤどこにいるんだ?俺のフレイヤ

「なんでそんな大事なことを黙っていたんだ。」

「‥言いづらいのですが‥恐らくフレイヤ様は」

俺は馬鹿みたいに幼かったからあいつの変化に気付いてやれなかった。

「フレイヤッ!」

「ビックリした。フレイ部屋を開けるときはノックぐらいしてよ。」

‥‥違う。

本当はずっと前から気付いてた。いつまでも一緒じゃいられないってこと

「お前!なんで言わなかった!」

「何をっ!?」

ズキンズキンと胸が痛む

「ロキと婚約したって本当か?」「っ」

そんな表情やめろ。俺の知らない表情をするな。

「なんで黙っていたんだ。ばれないとでも思ったのかよ。フレイヤ?!」

フレイヤの肩を掴んで揺する。こいつの肩、こんな華奢だったっけ。

「仕方、ないじゃん。」

掴んでいた肩が小刻みに揺れだす。泣いてる?

「仕方ない?何がだよ」

苛々する。さっきからフレイヤが俺の顔を見ない。

「俺を見ろよフレイヤ」

「見れないよ!フレイ」

彼女の涙が弾けた。

「見れないよ、見れない。見れるわけ、ない。」

大きな瞳から柔かな曲線を描いて涙が落ちる。

「私はもう、フレイと一緒には‥いられない。」イ

タイイタイ心ガイタイ

「一緒にいると辛いの」

落ちるナミダにフレタイ

「好きすぎて‥辛いの」

ナミダを落とす君の心に

「だから、もう‥‥」

「フレイヤに触りたい」

未完成な僕らは互いを求め合う。けどそれは時に大きすぎる代償を伴う。

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