残り九日 ①
森へ散り散りとなった。
森のなかは鬱蒼(うっそう)としていて、鳥の鳴き声と風が笹を揺らす音、動物の鳴き声が聞こえてくるたび、背筋が凍るかのようにビクつく。
怪物は、動物や鳥に化けてやってくる。
風に乗って、怪物は近づいてくる。風が吹いている方へ行ってはいけない。
それが、最初に言われた言葉だ。
ぼくは、風が吹いている方向へはいかず、動物たちの声を尻目に怪物がいないであろう方向へ向かって走った。怪物は、臭いや音、目でぼくたちを見つけていない。
四番目に捕まった仲間が言っていた。
「怪物は、どういうわけか臭いや音、目では見ていないようだ。どうやって見つけているのかはわからない。でも、言えることはぬいぐるみが近くにいないことを注意することだ」
と言っていた。その子はその日に捕まってしまった。
その意味を言っているのはおそらくぬいぐるみがぼくたちの居場所を伝えているのだ。ぬいぐるみは『監視者』と名乗っていた。そのうえで、怪物をぼくたちがいる座標を教えている存在もであると。
現に、隠れていても怪物に見つかることが多々あった。その度に華麗に回避して、怪物の両腕に捕まらずに逃げてきたのだが、ぬいぐるみが指を指したとき、居場所がバレるということが分かった。
でも、このことはまだ三人に話していない。
言葉や伝号ではぬいぐるみたちにバレてしまうからだ。
川遊びでもトイレでもついてくる。
ぬいぐるみはぼくたちから視線を外すことは一度もない。
つまり、教えてしまえば捕まってしまうということだ。
このことを教えてくれた仲間はぬいぐるみに罠を仕掛けられる形で捕まるところを目撃した。ぬいぐるみは巧妙に、『怪物の秘密を漏らす』と口を滑らすかのように言い、彼が秘密基地へ戻ろうとした隙に足を引っ張って近くまで近づいていた怪物に受け渡していた。
その子は何度も助けを呼んでいたが、助けに行くことはできなかった。
『秘密を知れば、消される』
攻略の鍵を握っても消されるのだろう。
協力と言っていたが、嘘なのかもしれない。
いまさらだが、後悔している。
その子の件もあったのに、それにすがりたくなってしまった。身がもうあまり持たない状況にあるのだろう。
力にすがりたい。
その欲求がぼくを動かした。
蛍が止めてくれたにも関わらず、ぼくはその力に媚びを売ってしまった。
蛍はあれから口を聞いてくれず、そのままだ。
「――あれはぼくの間違いだったのかな…」
選択の不安がぼくをより、仲間の信頼を失わせたような気がした。
**
昼過ぎだった。
ぬいぐるみから弁当をもらい、昼食に取り掛かる。
休憩時間は三十分しかない。昼飯を終え、トイレに行っているだけでもう超えてしまうことも多々ある。
ぼくは急ぎと、弁当を飲み込むようにして胃の中に押し込み、トイレへ駆け寄った。トイレは、ぼっとん式で、昔のような肥溜めに使うために底が壺ようになっている。あとで、壺を引き抜き、別の壺に変えることで、感染から虫湧きを防止していた。
「急いで、逃げないと」
腕時計を見た。
時間は、もう三十分を猶予に超えてしまっている。
「ヤベッ! もうこんな時間か…!」
相変わらずトイレに長いしてしまう。
トイレだと不思議と落ち着けるのだ。
狭い空間に座り、いろんなことを思い浮かべては頭の中で整理していく。誰かに見られることなく声をかけられることなく一人で過ごせるからだ。
ぼくは、トイレにいるときだけ冴える。
でも、周りは「サボっている」としか思われていない。
頭のなかが整理しても、「サボっている」と思っている彼らによって整理整頓しても散らかされてしまい、ぼくの頭の回転は止まってしまう。
だから、こうしてひとりで過ごせる時間がほしいと、考えるようになってしまったのかもしれない。
「かいぶつだッーー!!」
誰かが大声で叫んでいる。
この声の主は、大輔だ。大輔がなにかあったのかもしれない。
ぼくは、紙でさっさと吹いて、扉から出た。
大輔が捕まっていないことを信じて、ぼくは大輔を助けるために走った。
手に入れた力がきっと、役にたつことを信じての行動だった。
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