十日間の秘密基地
にぃつな
残り十日
山のふもとにある秘密基地に引きこもって二十日がたった。
日のでは降りたり昇ったりを繰り返しては、ぼくらは残った仲間たちとともに生きていることを確信し心ながら祝っていた。
最初は十人の仲間たちがいた。彼らはみんな、同じクラスメイトでとても大切な仲間たちだった。
生き残ることを考え、敵を罠にはめる方法を繰り返し考え、実践してきた。そのたびに仲間たちが一人ずつ姿を消していってしまった。
残ったのはぼくを含めて四人。
――いや、三人だ。昨日、トイレに行った友達が帰ってこなかった。きっと、怪物に襲われ、戻ってくることができなかったからだろう。
「祥平、帰ってこなかったね」
体格が一回り大きい男の子が言った。
祥平は、もう戻ってくることはない。できる事なら戻って「おどろいた★」と脅かしに着てくるのだが、日付が変わっても戻ってきていない。
「……わたしたち、このまま捕まっちゃうのかなー」
神流が涙ながらそう口にした。
不安と恐怖がこみ上げてくる。日が経つにつれ仲間が減ってきているからだ。今日いる仲間たちもいつ、いなくなってしまうのか、それが不安でたまらないのだ。
ぼくだってそうだ。仲がよかった二人が最初の昼に怪物に襲われて、戻ってくることがなかったからだ。
必死に逃げた。二人をおいて逃げた。その結果、大切なものを置いてきてしまった感がぼくの心の奥に突き刺さって取れないでいる。
「大丈夫だ。なにせ、俺と竜介がいる。俺達二人がおまえらを守ってやるから」「そんなんじゃない!」
神流の一言で、大輔は止まった。
もうこれ以上、失いたくない思いの神流は、たとえ、「守ってやる」という言葉さえ信用できない。
「守るんじゃなくて…」
青い帽子をかぶった少年(蛍)がゆっくりと声を出した。
「逃げてでも助かってほしい、でしょ」
神流たちに振り返り、優し気に言った。
でも表情からしてわかる。怖いのだ。彼もまた、肩を震わせ、いつ自分にも怪物に襲われるのか、先の未来を考えられずにいるのだ。
「そ、そうだなー。そうだよ、俺達は生き残っている。あと、十日間だ。あと、十日生き残れば、怪物は姿を消す。そして、仲間たちが戻ってくる。そういう約束を交わしたんだ!」
大輔が思い出すようにして言った。
あの怪物はあと十日さえたてば、消える。
霧のように姿かたちかき消すかのようにして消滅する。
すべて、最初に日にちに交わされた約束事だ。
仲間も戻ってくる。
そうだ、あきらめる必要はない。
生き残れさえすれば、みんな戻ってくるんだ。
『生き残ればね』
ようやく元気が取り戻そうとしているところを横から何者かが挟んできた。
『気安く勝利を確定したような発言は止めた方がいいよ。それは、君たちにとってフラグしかないんだから』
喋っているのは虎のぬいるぐみだ。
不思議なことに口をパクパクとしゃべる。手足を動かし、ぼくらたちを監視するかのように常に一緒に行動を共にする謎の存在だ。
「生き残ることがもっとも重要なことだろ。それに、君らがぼくらになにか情報をくれるのかい?」
『必要とならば力を貸そう』
意外な言葉が出た。
今まで、協力という言葉は一切提示しなかった。それどころか、『監視者だ。いかなる理由であろうと協力も手助けもしない。ぼくらは君たちを監視し、不正なく生存できるかを見届ける』と言っていた。
そのために、何人かの仲間たちが消えていった。
この時になって、なぜいまさら手を貸そうとするのか疑問に思う。でも、力にすがりたい。監視者というのなら、協力者ではないかもしれない。でも、彼らが『力を貸そう』と言っているのだ。
ここで蹴るのはもったいない気がする。
「その言葉、どこまで信用していいの?」
蛍が彼らに尋ねた。
内心、まだ疑っている様子だ。
さすが、蛍。慎重派だ。周りの空気に流されず懸命に答えを導いてくれる。
『信用しなくていい。ただ、生き残りたいのなら、選択するべきだ。誓おう。条件が満たされた。我らは君らに力を貸さなくてはならなくなった。もし、君らは力を否定するのあれば、ぼくらはそれ以上、何も言わない。』
ぬいぐるみはそうと言うと、『どっちを選ぶ』と尋ね返した。
ぼくは、手を上げようとしたが、蛍に無言で止められた。
「俺に力を貸してくれ」
「大輔!」
真っ先に手を挙げたのは大輔だ。
この仲間の中で唯一体格に優れ、力持ち。怒らせば、止める人は祥平ぐらいと言われている危険人物だ。彼が率先して立候補したのは、祥平のためかもしれないし、仲間のためかもしれない。
「私も、力をください」
立ち上がり、胸に手を置き、震えを押さえつけようとしている。
「神流!」
『お前らはいいのか?』
「ぼくは……」
ちらりと蛍を睨んだ。蛍は無言で目を瞑ったまま、床に向いていた。蛍が何を思ったのかわからない。蛍が止めた理由もわからない。でも、みんなのために、少しでも力がほしい。
それが、たとえ監視者であっても。
「立候補するよ」
ぼくが立ち上がった時、蛍は一瞬目を大きく開けた。
ぼくが振り返るころには床に顔を伏せるかのように向けていた。
『よろしい。では、三人に力を託そう』
カッと白い光に包まれた。懐中電灯の光の否にならないほどのまぶしさだ。ぼくらは思わず目を瞑り、両手で顔を追うようにして光を遮った。
目を開けた。
懐中電灯の光だけ秘密基地のなかを照らしていた。
まぶしいはずの光はすでに消え去っていた。
「なにか、変わったか?」
『いずれ、わかる。さて、残り九日だ。生き残れるといいな』
日が昇るが見えた。
あと、九日。生き残らなければ、みんな戻ってこない。
ぼくらは力というものを噛みしめることはなく、怪物が彷徨う森の中へと消えていった。
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