おまけ:たのしいスクリーム講座

「あーあーあー、ああぁぁぁあ、あ、あ、あ、あ゛、あ゛、あ゛」

「うおっ、優有どうした。風邪か? 憑き物か?」

「なんだ嶺か。スクリームの練習してたんだよ」

「スクリーム?」

「それじゃ、優有ちゃんの楽しいスクリーム講座、始まるよー。テデーン」

「なんか始まった」


「まずはスクリームってわかるかな」

「ホラー映画かな」

「まあ百万回くらい言われてるけど、日本で言うデスボイスのことだね。デスボとか草生える」

「優有ってそんなキャラだっけ」

「精一杯イキって生きています。やっぱりわたし、そういう音楽が好きだし、ベースも始めて一年経つし、次は歌かなって」

「そんなもんか」

「それでぇ、日本語だとデスボでまとめられてるんだけど、実はたくさん種類があります」

「ほーん」

「一番低くてゴボゴボいうガテラル、低めでがなり立てるようなグロウル。真ん中からちょっと高めの絶叫がスクリーム、一番高いのがスクリーチとか呼ばれてるよ。これは人によっていろんな解釈があるから絶対じゃないよ」

「ごめんちょっと情報量が」

「あとは笛みたいな叫び方のホイッスルとか、そのまま豚の鳴き声のピッグスクイールとか盛りだくさん」

「おやおやおや」

「実はこの低い方の歌い方って、あんまり地声は関係なくて、喉の広さや長さが重要らしいんだ。わたし元々男じゃん? だから意外と低いの出るかもしれないなって練習してるの」

「そうなんか」


「それじゃ出し方なんだけど、『あ』の音で声を出して、ゆっくり音程を下げていくと、途中からしっかり音にならない、ブツブツ途切れるガラガラ声にならない?」

「あっ俺もやるのか……。なんか声じゃない声というか、やる気のない時のあれか」

「そうそうそれそれ。これ人によっては全然出せなかったりするんだって。これをエッジボイスっていうんだけど、低いのも高いのもこれができないとダメ」

「ほーん」

「これを普通に出せるようになったら準備運動おしまい。しっかり腹式呼吸を意識して、できる限り均等に鳴らそうね」

「基礎練なのか」

「ここからは高いのと低いのの出し分けなんだけど、これは男性だと理解が早いんだって。嶺、ちょっとごめんね。わぁ、すごい立派な喉仏。わたし全然出る前に女の子になっちゃったからなー」

「ちょっとやめて喉仏掴まないで」

「あら、ごめん。でも喉仏の位置が重要なの。一般的には喉仏を下げるとガテラル・グロウル。上げるとスクリーム・スクリーチになるって言われてる」

「だ、だから掴んで上下に動かすのやめて。普通にいたい」

「いいじゃん嶺のケチ。わかりやすく言うと、あくびするとき喉仏が下がって(喉が広がる)、上を向いてうがいをするとき喉仏が上がる(喉が閉じる)んだそうだ」

「あーなるほど。確かに喉仏めっちゃ動いてたわ。おもしれー」

「喉が広がってる時に、エッジボイスを出しながら息をいっぱい吐くとグロウルに。喉が閉じてる時に、エッジボイスを出しながら、地声か裏声を混ぜて息を吐くとスクリームになる。たぶんどちらかやりやすい、出やすい声があるはずだから両方試してみて。練習のときは、しっかり喉を湿らせて、少しでも喉が痛くなったらすぐにストップしてね。無理すると血反吐吐くよ」

「いや普通に喉痛くね?」

「それはまだエッジボイスが足りてないんだよ。上手に発声できるとあんまり痛くないんだって。だから普通の歌の間にスクリームが入っててもすぐに切り替えて歌えるらしいよ。オススメはお風呂に入りながらエッジボイスの練習。湿気で喉を傷めにくい、お湯の水圧が腹式呼吸を支えてくれる、リラックスするのでエッジボイスが出しやすいなどメリットたくさん」

「いや風呂場で唸ってたらやばいだろ」

「それが一番の弱点なのだよ……」

「あっ察し」

「ちなみに、スクリーチのロングトーン、腹式呼吸がしっかりできていれば滅茶苦茶伸ばせるらしいよ」

「ほーん」

「あとは細かいところだけど、高い方が口をいっぱい開けて、低い方が口をすぼめる、巻き舌にする、とかテクニックがあるみたい」

「多分おれには関係ないわ」

「えーちょっとー! ここまでやっておいてひどい! ほらほらー、きみの可愛い彼女のお願いだよーもうちょっとやろうよー」

「いや、俺そもそも興味ないし」

「ひどい! 毎晩夢に出てやる! 耳元でエッジボイス鳴らし続けてやる!」

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