【1巻/第五話】第五話 ヤマタノオロチ、いただきます その6
6
八つの首を
「あんた、どこに行ってたんだい! こんな化け物を放っておいて、一息つく暇でもあったのかい!」
すると今度は、
「リコ! おめえ、さっさとこいつをどうにかしろ! こっちはなけなしの燃料使って動かしてんだぞ!」
そして、おまけに《
「おや、てっきり見捨てられたのかと思いましたよ」
とニコリ。それぞれ襲い掛かるウナギをいなしながらの小言である。あんたたちも同じくらい化け物だろう、と内心
「まあ、悪かったって! それより、よーく聞いてくれ! このウナギは切っても切れない
リコの言葉に《
「
さすが
「よしっ! いくぞっ!」
リコは痛覚ドラッグを足に打ち、短く息を吐いた。びりびりと全身に引き裂かれるような痛みが走る。まるで、緊張で鳴り響く心臓の膨らみにさえ、痛みが存在するかのよう。しかし、リコは歯を食いしばり地面を蹴った。一本の首にまたがると、思い切り足に力を籠め、木刀を高く構える。下半身に触れる粘液がたちまち感覚を
「──せーのっ!」
《
魚の鮮度を長持ちさせるための
「あっ」
一つの首だけ、失敗である。それは号令をかけた張本人。痛覚ドラッグも、絞める覚悟もばっちりキマっていたはずなのに、やはり得物の相性が良くないらしい。ウナギの頭蓋骨に木刀は
「えっ」
そして地面に墜落した次の瞬間、すかさずウナギがリコをぱくり。丸飲みである。
「「「……」」」
他の三人も思わず動きが固まり、遠方ではルアンが目を見開き、ウカは悲鳴を上げた。
「リコちゃんっ!」
それを見ていた全ての者が思わず息をのみ、一瞬、《
「「「……は?」」」
ごく間近にいた三人の目には、その正体がはっきりと映る。それはもちろん、角ではない。ウナギの頭から伸びるのは、赤い血に染まった木刀である。やがて鎌首は大きく
やがて、もそもそとウナギの首が開いたかと思うと、
「くっそ、なんだこの血……めっちゃピリピリするぞ……」
髪の毛を汚す血を搾り取り、顔を拭い、それからようやくリコは周囲に気付く。
「……え? なに? どうしたの? オレ、別に死んでないよ?」
その声が《
「もう、なんなの! すっごく心臓に悪かったよっ!」
「ウカは心臓ないだろ」
「そういうことじゃなーい!」
リコ当人は本当に動揺などしていないようだった。ウナギに食われた瞬間、
それからリコは《
「なあ、楽しかっただろ! みんなで捕まえるのも悪くないと思わないか?」
すると彼は困ったように笑みを浮かべ──いや、おそらくはその時こそ心からの当惑に苦笑をしながら、こう答えたのである。
「ええ……まったく。実に面白い」
リコは満足そうに
「おーい、なんでもう終わったみたいな顔してんだよ」
「……実際、もう終わっただろう」
「はあ? まだウナギを
「……あんたたち、ほんとあたしを誰だと思ってんのかね……」
「それを知るために、これから一緒に飯を食うんじゃん」
「──」
まるで、どこかで聞いたような言葉である。機械
「……やるんだったら、さっさとしておくれ。もう昼飯時は近いよ」
その返答にリコとウカは目を合わせ、それから何かを確かめるように、もう一度静かに抱きしめ合ったのだった。
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