【1巻/第五話】第五話 ヤマタノオロチ、いただきます その5
5
リコが《
「ちょ、ちょっとお待ちください、ウカ様! 今回の件は
ビヌが必死に引き止めようとするのだが、ウカは全く聞く耳を持たない。
《シード》の人間を誰か呼ぶべきか、という考えが一瞬よぎったものの、カクタスが望めば彼らは動くであろうし、望まなければ動かない。それに野生動物を相手にするという点で、渡り竜の始末をリコに頼む集団が、ヤマタノオロチに
となると、残る
「《フェザ》の人は剣技に
足を止めずにそう言うウカに、ビヌは困り果てた様子で首を振る。
「我々は
「それじゃあ、やっぱり、ヤシギさんに直接お願いしないと」
「ですが、それは困るのです! あんまり皆さんに協力すると、私の首が……」
「もう手遅れでしょう」
「まあ……はい……」
ビヌは力なくうなだれながらも、ウカを無理やり止めようとはしなかった。というのも、内心彼はウカの思い通りにはならないだろうという確信があったからである。まず、ヤシギは《
「……って、待ってください。ウカ様? どうして、この道を?」
岩壁の内部へと続く細道に入ったウカに、ビヌは慌てて問いかけた。すると、
「だって、この前通りましたし。さすがに覚えていますから」
「で、でも、あの時は薬で──」
「もうビヌさんはご存知でしょう? わたし、人間じゃありませんから」
「……あぁっ!」
第一の理由、陥落である。《フェザ》の機密事項がこうも簡単に突破されるとは、完全に始末書ものである。とはいえ、まだ大丈夫。無理やりウカを止める必要はない。既に場所を知られている以上、無駄な暴力は振るいたくないというのが《
「……やあ、お疲れだね、ビヌ」
《フェザ》の区域へと続くセキュリティードアの前で待ち構えていたのは、いつもながらばっちりとブラック・タイを
「……ごめんねー、ビヌくん。ばれちゃった……」
ビヌの額から汗が吹き出し、一挙に口から水分が失われていく。大量の砂を
「カンナから事情は聞いてるよ。……ったく、監視カメラを増設して正解だったよ。悪いけど、あんたたちは要注意対象だからね。あたしもさすがに、こんなにすぐ外部と接触するとは思っていなかったけどさ」
「
「よその人間をここまで通すことが、かい」
「それは、事の成り行きで……」
「黙りな」
ヤシギの一喝でビヌは完全に沈黙。血の気が引いて、唇が真っ青になっている。しかし、そんなことは関係なしに、ウカはこう切り出した。
「リコちゃんを助けていただけませんか」
「《フェザ》も化け物退治に参加しろと?」
「そうです。このままでは勝ち目がないんです。もしも《フェザ》の協力があれば──」
「言っただろう。あたしらは《シード》の人間に
「……そうです」
「その無神経さには感心するけどね、無理なもんは無理だ。《フェザ》は《シード》とつるむことは絶対にない」
ヤシギの断固たる宣言が暗い通路に反響した。カンナもビヌも黙り込み、重い沈黙があたりを包み込む。しかし、ウカはそれでも視線を
「《フェザ》としては無理だとしても、ヤシギさん、あなた個人としてならいいはずです」
「馬鹿言うんじゃないよ。それは切り離せないもんだって、あの時教えてやったじゃないか。そんなことも忘れるような頭なのかい?」
「初めから、あなたの考えが正しいと納得したわけじゃありません」
「……ほお、言うじゃないか」
「あなたは《フェザ》の信念が、太古の社会運動だとお話していましたよね。平和を望む人間が、革命のため暴力に手を染めた。だからこそ、その罪と覚悟を守らなければならないんだって。……そうと分かっているのなら、なぜ本当の意味で信念を貫こうとはしないんですか。平和的に手を結ぶことができなかった過去の悔いを、どうして今、晴らそうとしないんですか」
「……」
「確かにわたしたちは沢山の過去を
なんと
ヤシギは長い沈黙の後、
「……あたしだけだからね」
「え! それじゃあ……!」
「……いいかい、今回手伝うのは、あたしだけだ。これはカンナがあんたたちに迷惑をかけた、その
「はい!」
「──カンナ、戦いは観測してるんだろう。あたしは何人必要だい?」
ヤシギが尋ねると、モニターに現れる「(*゚⁻゚) !!」の文字。
「んー、たぶん、十人くらいかな!」
「……結構な相手じゃないか。さっさと解凍しておくれ。あたしは先に行ってるよ」
そう言うと、ヤシギはもはやウカに目もくれず、外へ向かって歩き出していた。暗がりに銀髪の
「……さっきの、どういうことですか? ヤシギさんが十人?」
「おや、ご存じありませんでしたか。
ウカたちが外へ出てくると、たちまち周囲の熱狂に
そして次に現れたのは、黒服をまとった十人の騎士。言葉通り、十人のヤシギが長剣を抜き放ち、ヤマタノオロチに飛び掛かる。
「……彼女は……クローンなんですか」
「ええ。元々、《
「DFO? それじゃあ、オリジナルの
「存在しないでしょう。我々が会っている
「……わたし、何も知らないで……」
「いえいえ! 謝ることではないんです! むしろあなた方は、本当に
ウカはビヌに
「……それ、痛覚ドラッグだよね? また打つの?」
「
ヤマタノオロチと向かい合うは、カクタス、ヤシギ、《
そこでふと、ウカにとある知恵が思い浮かぶ。自らに刻まれた、長きに渡る人類の歴史。食材を
「ねえ、リコちゃん、一つ作戦があるんだけど──」
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