進むべき進路へ… 下
レンガで出来ている壁が壊され、建物前の広場は、辺り一面が血の跡に染まっており、そこには、首を切られた者や体を引きちぎられた者が、目を見開いた状態で転がり、なかには、先ほど出会った黒い革で出来た防具を身に纏った、真っ白の瞳を持つ者の遺体もあり、壊されている門にある検疫所も跡形も無く、監獄の建物へと続く道にある有刺鉄線も倒され、その鉄線に纏わりついて死んでいる者らの遺体もあった。
警戒を解かない状態で建物を目指す。
馬車はイモゴリラに任せる事にして、セラに召喚させると、セナスティとビッグベアは小さく驚いた表情を見せていた。
先頭をタイロン、その後ろにアサトとケイティが就くと、少し間を開けビッグベアがついてセナスティ、クラウトにセラ、システィナ、後方にジェンスとアリッサが就いた状態で建物を目指した。
少し進むと、ビッグベアが舌を鳴らし指をさした。
そこは、建物にある大きな扉が開け放たれ、そのまままっすぐに進んだ先の壁が壊されてあった。
「…ナンバー4の仕業だ…」
「ナンバー4?」
アサトとケイティが振り返りビッグベアを見た。
「あぁ~、あいつにはかかわらない方が良い」
その言葉に、アサトとケイティは顔を見合わせてから壁を見た。
派手に壊されている壁の高さは、遠くから見ても見上げる程の高さであり、あれを壊したと言う事は、それなりにやばい奴と感じていた2人は、小さく息を吐いてからタイロンの後方を進んだ。
建物の中に入ると、開け放たれている扉が何か所か見え、他の扉も小さく開き、このフロアーには、何も無く、誰もいないと思われるような静けさがあり、前方から、潮の香りを伴った、緩やかな風が入ってきているのが感じられた。
慎重に中に入り、開けられている扉の中を確認しながら進む…。
建物中央まで来ると、右側に下に続くと思われる階段と、左側に上に続く階段が見え、下へと続くと思われる階段を指さすと、クラウトが首を横に振って見せ、そこは行かない方がいいと言う意味であろうと思ったアサトは、左側にある階段を指さすと頷いて見せるクラウト。
その動きに、タイロンとアサト、ケイティが2階へと続く階段を登り始め、クラウトが指示を出して、ビッグベアを先頭にジェンスが就き、その後にセナスティ、システィナにクラウト、セラをつけ、最後方をアリッサ一人で見るような状況で、まっすぐに進むと言う仕草を見せた。
そこをすすむと裏手の処刑場である。
---アサトサイド---
確認したアサトらは小さく頷き、階段を登り始める。
階段を上がるにつれて、食べ物の香りが漂っており、登り切った先には、食堂らしき小さな敷居に区切られている場所が左側に見え、いち早く動いたケイティが向かった先には、人気は無く、食べ残しが、設えてある20台程のテーブルの上にまばらにあり、椅子も所々で倒れてある場所であった。
ケイティが調理場に入りパンを手にした。
「まだ…暖かいよ…」
その言葉に、調理場に入るタイロンとアサトは、鍋に入っているスープを覗いた。
「まずいね…」
ケイティが呟きながらスープを食しており、アサトもパンを手にしてひとかじりしてからタイロンを見ると、タイロンもパンを頬張り、乱雑な場所を見渡しながら、調理場から廊下に出る順路を進んだ。
階段のある廊下に出てみると、そこには、階段を中心に、十字に廊下が走っており、食堂を出た場所からは、左右に通路がある。
少し右に階段、そして左側は…。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ」
けたたましい悲鳴にも似た女性の声が、建物内で響いて聞こえて来たのに、3人は顔を突き付けてから駆け出し、来た廊下を戻り階段を降りると、まっすぐに進む扉へと向かった。
扉を出た先では、夕陽の眩しい光が辺りを照らし、2つの何かが見えた。
よく見ると、一つは絞首台のようで、もう一つは斬首台のようである。
絞首台の方には、巨大な鉄棒のような、両側を木製の太い支柱が立ち、その支柱を繋ぐように鉄の棒が横に張り渡してあり、張り渡している棒には、数本のロープが揺れているのが見え、斬首台の方には、2本の柱の間に太い紐が揺れ、その下には、吊るしていたと思われる、巨大な刃があり、柱の間にうつ伏せ状態にさせて、首を切断する執行装置であるのが確認できた。
2つの執行台の間の向こうに、崩れている姿が見え、その姿に並ぶように何かを見上げる仲間達の姿があった。
アサトを先頭にタイロン、ケイティが続く…。
肩を大きく震わしながら、崩れて泣いている姿はセナスティであり、その傍にビッグベアが腕組みをしていて、アサトらの気配を感じたシスティナが、口に手を当てて振り返った。
逆光で見えないが、そこに何かがある…。
近づくアサトにクラウトが振り返り、セナスティへと視線を落とし、セナスティの泣いている姿を見ながら通り過ぎたアサトは、彼らが見ていたモノを、目を凝らして見てみると、そこには……。
口の周りに銀髪の髭を蓄え、オデコに出来物みたいな角のような物が4本生えている、見た事のある顔があり、その表情は目を見開き、舌を出している屍になっているベラトリウムの姿があった。
『「…種族間の無い世界。それをどう実現したらよいのかと…だから、わたしのようなイィ・ドゥをも高官に任命するんだ、任命された以上は、国王の望みをかなえてやりたい、だから、今回の事は国王もお喜びであり、また、新たな出発点であると考えている。戦の無い世界が一番いい、それはだれでもわかるが、その世界の築き方がわからない、君らにはほんとに感謝している、だから、まずはルヘルム地方を改革しようと思っている。種族間の争いの無い世界を作るために…」』
彼の言葉を思い出した…。
…そうなんだ…。
笑みを見せて語り、首に勲章をかけてくれた彼は、オークプリンス討伐の際に話してくれた王の理想と自分の立ち位置…。
それが彼をどんなに強くし、彼を一人の人として生かしていたのかを思い出した。
…そうだよ…、戦の無い世界が一番いいのは分かっているのに…、…なんで…こんな事ができるんだ……。
後方では、涙を流して鼻をすすり、小さな声で泣いているセナスティの気配が分かる。
…この痛みは…なんだ…この痛みは…。
胸にちくりと刺さるような感覚の痛みに違和感を持った。
…なんだ…この感覚…。
見上げるベラトリウムは、十字架に杭で両手を打たれ、足も太い杭で打たれており、左右の手の指は5本ともない状況であり、足の指まで切り落とされている。
目を開いて見下ろしている瞳には、アサトは映ってはいるが、確認はできていないのであろう。
…もう死んでいるのだから…。
…でも……これは……。
アサトはゆっくり振り返り、一同を見ると、ケイティは目を見開き、その隣のタイロンは眉間に皺を寄せ、システィナは口を押さえて涙を流し、セラがシスティナに寄り添っており、ジェンスは辺りを悲痛な表情で見ていて、ビッグベアが腕組みをしている。
建物から先ほどの兵士が現れ、近づいてきているのも見え、目の前では、崩れて泣いているセナスティの短い金色の髪が風に揺れている。
そして…、クラウトがメガネのブリッジを上げ、アリッサは、アサトの視線に小さく頷いて見せており、その仕草を見たアサトは大きく息を吸って、左の手をセナスティへと向けた。
そして……。
「行きましょう!王都へ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます