第21話 進むべき進路へ… 上
「細身の刃を持つ武器で、オークを真っ二つにした者。オークプリンスを討伐し、国王より勲章を受けたモノがリーダーのチーム…」
「俺も聞いた。オークプリンス討伐戦で活躍した。この世界では見た事の無い武器を扱う者の話しを…。兵士の間では有名な話だ…」
女性の言葉に、付け加えた兵士がアサトを見上げ、アサトは女性を見ていた。
「いかにも…。」
クラウトが前に出て来る。
「私たちは、チームアサト…。そして…あなたは…セナスティ皇女閣下ですね……、間違っていたらすみません…」
クラウトの言葉に小さく息を吐いた女性は、小さく頷いた。
「そうです…、私はセナスティ…。」
クラウトを見てから視線を彼女へと移し、その容姿を確認したが、布でできた外套を纏い、髪も短くぼさぼさであり、皇女と言うよりは、平民の娘にしか見えない容姿であった。
「そうですか…」
「…良かった…」
クラウトの言葉に、胸を撫でおろしたようにつぶやいたセナスティは、アサトを見た。
「わたし…あなた達におね……」
「皇女、それ以上は言わないでください」
遮ったクラウトの言葉に、小さく俯いたセナスティは、その言葉の真意は分かっていた。
この事案は、王族であり、この国を治めている者らが鎮圧しなければならない事を…だが、もう既に彼女の手に余る事態となっており、父親である王も逝去し、弟は捕らわれ、母の王妃は行方不明…。
自分がここまで来たのは、恩師であり、父親のような存在であるベラトリウムの救出であるが、今、この現状を見て、この先、監獄で何があったのかは薄々だが感じており、どうしていいのかわからない状況で、ベラトリウムの言葉を頼りに会いに行った者達が、形はどうであれここで会えた、一度は断られた事もあるが…。
…この先、誰に頼ればいいのか…、…頼めない事は、わかってはいるが……。
「あなたのお兄様と言う方にも言われました」
「お兄様…ロイド兄さんですか?」
「ハイ、彼もマモノに属される者を救出しておりました」
「そうですか…」
一部の光が見えたような気がしたセナスティは、クラウトを見る。
「だが…、別れ際、彼はこう言ってました。…もし、皇女に会っても、この件には手を貸さないで欲しいと…」
「…」
クラウトの言葉に沈黙が流れる。
セナスティにも分かっている。
ロイドもそうである、だから彼はこの地方を駆け巡り、マモノに属する者を助け、導いている。
いずれは対峙しなければならない相手がいる事を分かっている。
「…わかってます…でも…もう…手が…」
「そうですか?まだまだ、何かができると思います。」
クラウトを見るセナスティ。
クラウトは、セナスティに視線を合わせると、アサトへと視線を移してみせ、その動きにアサトを見ると、セナスティを見ているアサトの視線と合った。
「…アサトさんは、これからどこに行くのですか?」
ハッとした表情になったアサトは、小さな笑みを浮かべた
「フーリカです。僕らの仲間には、セラと言う亜人と人間の間に生まれた人がいます。彼女を守りながら、監獄の傍を通って『クレリアレシク』へ行くつもりです」
「そうですか…。マモノ狩りが横行している今は、すぐにでもこの国を出た方が得策ですよね…。旅をなさるんですね?」
「はい…使命…みたいなものはあるんですが、力を付ける為、そして、僕らを待っていてくれている人と会うために」
「使命?待っている?」
「はははは…、まぁ~、そうですね…。僕らの旅の目的地は『アブスゲルグ』です!そこに行く為に旅をするんです。途中で僕らを待っていると言う人もいますから…」
「『アブスゲルグ』…、聞いた事がないわ…」
アサトはセナスティのそばに近づいた。
「そこには、僕らのような、誘われた者らが待っている答えがある…そう言う場所です……」
「……」
俯いたセナスティ、
「そうですよね…みんな何かの目的の為に行動をしているんですよね…」
大きな笑みを見せた。
「あつかましいお願いをしそうになりました、…すみません…」
頭を大きく下げて、小さく肩を揺らしながら、小さな涙を落とし始めたセナスティ。
「もし…よければ…、監獄方面に行くなら、近くまで一緒に行ってもいいですか?」
セナスティの言葉に振り返りクラウトを見ると、メガネのブリッジを上げて目を細めていた。
「なにか…あるのですか?」
「はい…」
顔を上げ、涙にぬれている顔をくしゃくしゃにして笑顔を見せた。
「ベラトリウム氏の無事を確認に」
「ベラトリウム氏?」
アサトが目を見開く。
「…やはり…、話は聞いてました。幽閉されているのですか?」
「はい…。そこで、私は彼に会い。そして…あなた達の事を聞きました。何かあったら……。」
アサトは、クラウトの言葉にセナスティを見ると、涙をごまかそうと大きな笑みを見せている表情がそこにあった。
「…いいじゃないですか、監獄の近くとは言わずに、監獄まで行ってみましょう。ベラトリウムさんは、知らない人ではないですから…」
アサトの言葉に、セナスティはクラウトを見ると、そのクラウトは隣のアリッサへと視線を向け、小さく頷いているアリッサの姿があった。
「そうだな。もし、そのあたりが無人なら、今夜は、その近辺で野営をしてもいいかも」
クラウトの言葉に笑みを見せたアサトは、セナスティを見た。
「…じゃ、行きましょうか……」
ビッグベアが近付いてくると、その背後では、ケイティとジェンスが遺体を漁っていた…。
長い列は続き、1時間ほどかけて最後の者らが進んで行った。
「『ナンバー4』だ…」
ビッグベアが漏らした言葉に目を細めるアサト。
列の最後尾に、オークプリンス並みに大きな姿があり、その肩には、綿帽子のような白くふわふわしている帽子を被っている、女の子らしきものが座っており、フードを目深にかぶり、木でできたロッドをもっている者も並んで進んで行った。
…なんだろう…胸騒ぎがする…。
セナスティとクラウトは、今の列にはベラトリウムの姿が無い事を確認し、列の姿が見えなくなるまで待ってから監獄へと向かった。
2人が乗って来た馬は殺されたようで、セナスティは馬車に乗り、ビッグベアはアサトとジェンスと共に歩いた。
ほどなく進むと『クレリアレシク』への看板がある分かれ道に着き、北へと進む方向に監獄があるとの事で、そこから続いている無数の足跡が確認できた。
この分かれ道までは、草原を通って来たのか、草原にも一本の行進のあとがあり、この分かれ道に辿り着いている。
南西の方角から来たようだと、クラウトがメガネのブリッジを上げて小さく俯いた。
…何を考えているのだろう……。
行進の足跡をたどるように、『クレリアレシク』とは違う北へと延びている道を進む。
潮の香りが漂ってくると、ケイティが立ち上がってはしゃぎ始めたが、話によると、この先は海だが、断崖絶壁になっていて、降りる事は出来ないそうであり、海に入るなら、『クレリアレシク』まで行かなければ、海には入れないとの事であった。
その言葉に小さく舌打ちをしているケイティの姿があった…。
そして…。
「あれ…」
指さすケイティの先には、少し登った先から数本の煙が上がっていた。
「警戒態勢で!手綱をアリッサ。ジャンボが先頭で、アサトとジェンスと共に先陣を、システィナさんは魔法の準備。セラは、『オークプリンス』の召喚石を用意して待機!」
クラウトの声に一同が動く。
ケイティは、クラウトのスコープを覗いている。
「…誰もいないと言うか…なんか大変なことになっている!」
その言葉に進み出した一行は、緩やかな坂を登りきり、監獄前へと着いた。
そこには…
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