黒いモノたちとの戦い 下
アサトの目には、胸に確かに突き刺さっている剣が見えるが、黒いモノの動きは止まっていなく、悲痛な声も聞こえてこない…。
…なんだ?
争っている中に入ったジェンスが、黒い刃を持つ剣を抜いて黒いモノに襲い掛かり、アサトも負けじと太刀を振るい始めると、巨大な男とアサトは目が合った。
…ってか…熊?
「いってぇ~~」
ジェンスの声に視線を動かすと、腕を押さえているジェンスの姿が見えたと同時に、後方から音が聞こえてきたのに、アサトは咄嗟に太刀を出して、その攻撃を受け止めて鍔迫り合いになると、その向こうには、不気味な白い眼玉が大きく見開かれているのが見えた。
「くりゃぁ~~」
ジェンスが剣を振るう音が聞こえてくる、アサトも鍔競り合いから大きく押し出し、間合いを取った状態になると太刀を振り、その刃は、黒いモノの顔を切りつけたが…血が出てない?
…どう言う事?
黒いモノが剣を大きく振り上げた瞬間に、眉間から小さな刃が飛び出してきた。
…え?…
黒いモノが膝から崩れると、その向こうにケイティが槍を大きく突き出していた。
「ケイティ!」
ケイティは、背後に迫る黒いモノの気配を察知していたのか、しゃがむと黒いモノから槍を離し、勢いをつけて、背後の黒いモノの足を槍で払い、その払いに浮き上がりながら地面に転がった所に、アサトが飛び込んで眉間に太刀を突き立てた。
巧みに槍を回しながら立ち上がったケイティは、ジェンスへと向かって進みだす。
兵士が剣を振り、その傍に群がる黒いモノ…。
足を庇いながら熊のイィ・ドゥが大剣を振って、黒いモノの首を切り落としており、兵士も剣を突きたてると、動きの止まった黒いモノの頭を斬り落とす攻撃をしていた。
ケイティは、ジェンスと一緒に戦っており、眉間をめがけて攻撃をしている。
アサトは…、
むかってくる黒いモノを相手にする。
2体…。
先に近づいた者が剣を振り出してきたので、その剣を弾いて間合いをとると、その後方から来た、槍を持つ黒いモノと対峙をする。
…これは生き物?…
黒いモノから感じられる、生命感の無い動きに戸惑いながらも太刀を振る。
…とりあえず、頭を切り落とすか…、眉間?なのか?
2体目が槍を突き出してきた瞬間に、矛先を太刀で弾くと間合いを詰め、肩を黒いモノの体にあてると、刃を眉間へと突き立てた時に、先ほど弾いて間合いを取った黒いモノが近付いてくるのに気付き、咄嗟に黒いモノが持っていた槍に手を持って行き、槍を掴んで小さく矛先を上げ、むかってくる黒いモノの額へと向けると、黒いモノは逃げもせずに矛先に突っ込み、真っ白な瞳をアサトへと向けたままで、口を大きく開けて動きを止めた。
周りの動きが無くなるのが分かる。
馬車が近くに来てクラウトが降りているのを確認すると、振り返ったアサトの視界には、兵士は腰を落として項垂れ、ジェンスがしゃがんで黒いモノの兜をとろうとしているのが見え、巨体を見上げているケイティの姿もあり、その巨体はケイティを見下ろしていた。
先ほどまで戦っていた兵士の2人は、どうやら殺されたようである。
槍を手離し、太刀を黒いモノから抜くアサトの横で、黒いモノは小さな音を伴い地面に倒れ込んだ。
「うわ!これ…なんだ?オークか?」
ジェンスが声を上げており、どうやら兜をとって中を確認したようで、その言葉に倒れているモノを見たアサト。
確かに黒いモノは、全身を、黒色で染められている革で出来ていると思われる防具を纏っており、革で出来ている兜に胸当て、腕当てに脛当て…、兜の中は…、イィ・ドゥ…のようだが、…でも、なにかが違う。
貫いた額には、窪んだ文字がまだあった。
「助かった…ありがとう…」
言葉に振り返ると、項垂れている兵士が言葉をかけて来た。
「あなた達は?」
「おれは、この先にある監獄の衛兵だ…」
「衛兵?」
傍にクラウトとアリッサが来るのが分かり、その次に来る気配はシスティナにセラであろう…。
振り返り、2人の気配を確認してから兵士へと視線を移した。
「こいつらは…監獄を襲ったんだ」
「襲ったって……」
「どう言う事なんですか?」
クラウトがメガネのブリッジを上げた。
こういう時は、クラウトでなければならない事は分かっている。
「…いきなりだったんだよ…俺は、検疫所を守っていたんだ…こいつらも…」
アサトは屍になっている兵士へと視線を移し、倒れている兵士は3人…、ここから離れた場所にも2人の遺体が確認でき、その屍を見てから兵士へと視線を移動させた。
「2つある検疫所から8人で逃げたが…無理だった。そこの人達に助けてもらったが…」
今度は巨体を見る。
熊のイィ・ドゥは腕組みをして、ケイティと睨めっこ状態であり、ケイティも眉間に皺を寄せて見上げていた…。
…姫は何をしたいの?……。
熊のイィ・ドゥの後ろにいる者がアサトを見ており、かすかにフードの奥に見える金髪と青い瞳が、まっすぐにアサトを見ているのが分かった。
「今の軍勢は、何なのですか?」
クラウトが訊く。
「わからない…、多分。ジア・ドゥの軍ではないだろうか…」
「ジア・ドゥ?」
小さく驚いた表情で、視線を兵士へと移したアサト。
「あぁ…ジア・ドゥは、マモノを引き連れて王都へと向かっていると聞いていた…」
…マモノって…。
見下ろした先には、イィ・ドゥの姿があるが、何かが違う感じがしており、よく観察してみると、肌も薄い紫色になっているように見え、血が通っていないせいなのか…、内出血しているような感じであるが、それよりもかなり薄く思えた。
「だが、ジア・ドゥの軍は、東を進軍していると聞きましたが…」
「東?」
クラウトの言葉に兵士が顔を上げる、そこには大きな打撲痕が見えていた。
「話を聞いただけですが…軍勢も10000…」
「…ジア・ドゥの軍でなければ、この軍は…なんの軍なんだ……」
項垂れた兵士を見ているアサトは、遠くに並んでいる列を見たが、その列は、いまだに行軍しており、最後尾が確認出来ない程の数である。
おかしなことに、ここで戦っていても、その列から向かってくる増援もなければ、こちらを見ている者さえいない。
距離は遠くではあるが、目視で確認できる程の距離であるのに…。
彼らは前しか見ていない、まるで誰かが操っているように思える、そんな動きであった。
「監獄が破られたと言う事で間違いは無いのですか?」
クラウトの言葉に小さく頷く兵士。
「…多分…確認はしていないが…」
兵士の言葉に顎に手を持ってきて何かを考え始めた。
「その表情は、良くない事だな!」
細い道に馬車を止め終えたタイロンが、辺りを見渡しながらやってくると、クラウトの傍に立った。
タイロンの言う通り、クラウトの表情は何かを考えている表情であり、その表情は…。
「あの……」
女性の声に、視線を向けるアサトと追随するクラウト、そして、タイロン…、アリッサにシスティナとセラ。
そこには、大男の後ろにいた、フードを被った女性が立っていた。
「もしかして…あなたは…」
彼女を見ているアサト。
「…間違ってたらごめんなさい…。」
言葉を発した女性はフードを外すと、そこには、金色の髪を短く切っている女性が、まっすぐな視線でアサトを捉えていた。
「あなたは…アサトさんではないですか?ルヘルム地方、ギルド・パイオニア所属、チームアサト。そして…そのリーダーのアサトさんでは……」
彼女の言葉に目を見開いたアサトは、クラウトを見ると、小さく顎を引いて彼女を見ていた。
その彼女は……。
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