第20話 黒いモノたちとの戦い 上

 ミュムの街を旅立ったアサトらは、西への進路を森沿いに進んでいた。


 結局ミュムはどういう存在なのかも、鬼たちが、体に塗っている塗料も謎のままであり、その事をクラウトは訊いていたようであったが、答えをはぐらかされたようである。


 クラウト曰く、彼らも戦略的な事は口にしないのは正解だなと発していた。


 考えれば、今はこうしてよくしてもらっているが、どこかで敵対するかもしれない。

 ただ、敵対とは言いたくは無いが、仲の良いモノでも教えられない秘密はあるはずで、それがあるから仲が良いのかもしれない。


 ロジアンの言葉を思い出していた。

 『王都へ行くのか?』

 その言葉を考えていたアサト。


 フーリカへの渡航が、この国の目的であり、クラウトが言っていたように、この案件は一国民がなんとかできるものではなく、アルベルトなら、降りかかる火の粉が無ければ静観なのであろう。

 それに、こちらにはセナと言う、狐のイィ・ドゥがいて、狩りの対象であり、もめ事を犯さずに国を出るのは容易ではない事は、メンバー全員が分かっていたから、一刻も早くフーリカへと向かうのが得策なのではないかと思っていた。

 すべてを踏まえれば、王都へ行かない事は、得策である…。


 …でも…なんか…違うような……。


 森の淵沿いを通り、『オア』と言う村に着く、そこはミュムの知人の村であり、鬼たちが助けたイィ・ドゥの村であった。

 そこでミュムの紹介と言う事を伝えて泊めてもらう。


 翌日は、ココから北上して、『エギアバル』監獄方面へと向かい、その近くの分かれ道に『クレリアレシク』への看板が見えるとの事であり、その道は細い道なので、面倒には巻き込まれないと言う事であった。


 『クレリアレシク』へ行くにはこの道が最短のようである。

 その村から『クレリアレシク』までは5日はかかるとの事で、2日で『エギアバル』監獄周辺に着き、そこから少し進んで海岸線にでると、3日で着くようである。

 歩きなら1週間から10日と言う事であったが、馬車なら少しは早く着くのではないかと言う事だった、現に『オア』の村には2日かかると言われていたが、1日で着いた。


 …順調だね……。


 村長に挨拶をしてから村を出て、1日かけて進み、適当な場所で野営をして、『エギアバル』の監獄を目指して進む。


 小さな林が点在する草原は、小さな丘が連なっている場所であり、道は細いが整っていて進むには容易であった。

 案外早く着くかもな…と、タイロンが言い、隣のクラウトはメガネを上げて見せていた。

 その仕草にアリッサを思い出す…。


 昼食をとるために見晴らしのいい丘で馬車を止めた。

 道行くモノはいない。

 この細い道は、大きな道に当たるようなので、そこを避けて通っている者が多いかもしれないとクラウトが言っていたが……。


 緑が少しだけ枯れ始め、冬の到来を待つ草原には、枯れた草が目立っていた。


 昼食をとったアサトら一行は、順路を進み始め、小さな丘を越え、しばらくゆくと、再び丘を越える。


 冬前の暖かな陽気に、馬車の上ではケイティが居眠りをしている。

 昨日もそうだったが、寝返りを打って危うく落ちそうになり、また、小さな黒い板の上に寝返りをして、タイロンに激怒されたりと…、事欠かない状況であった。

 そう言えば、ソンゴとの訓練も順調のようだ…。


 カエルの腹から見つけた槍をたいそう気に入っていたが、ミュムの村で見つけた、先端に小さな両刃の刃がついているシンプルな槍を購入していた。


 まだ2・3日しかやってないが飲み込みは早いようで、ソンゴとの演舞みたいなものは、なかなかの見物であり、クラウトもケイティの習得の速さに驚いている。

 ジェンスとケイティとの組み合わせも、考えておかなければならないと思っているようであった。


 そんなケイティがなにかに気付いたのか、目を覚まして馬車の上に立った。


 …もう、そこは姫の場所なんだね……。


 しばらく遠くをみていると声をあげる。

 「すっごぉ~、蟻の行列みたいだ!」

 ケイティの声に前方を見ているが、見えない…というか、これから丘を登りきる所であった。

 その声にジェンスが駆け出し、アサトも追いかけて丘を登った。


 見渡す限りにうねっている地面に、枯れ始めている草らが点在し、色を変え始めた林や森が見え、そのうねっている地面の向こうを進む一団が、アサトらの目に見えて来た。


 先頭はすでに見えなく、行列はまっすぐに進んでおり、その様相は、頭からつま先まで、黒いなにかを纏っているようで、槍だろうか…、何かを持っている者もいれば、手ぶらで腰に剣を携えている者もおり、その者らの形ははっきりしないが、大小さまざまな大きさであるのは確認できた。


 馬車が丘の上に着くと止まり、丘の上で行列を見ているアサトらは、延々に続いている列を見送る。


 「…大きな道を進んでいるな…向かう先は…王都か…」

 スコープを覗いているクラウトが言葉にする。

 「王都?」

 タイロンが怪訝そうな表情を見せて訊く。

 「あぁ…、ミュムの街で読ませてもらった手紙から言って…、この地方の諸侯らが立ち上がり、玉座をめぐる戦が起きる…という事なのかもしれない…、Ⅰ万以上はいるな…」

 見えない先頭から列を見ているクラウトが、ゆっくり列後方へと動かして、ある場所で止めた。


 「…なんだ?あれ?」

 その言葉に辺りを見渡す一同。

 「おぃ!」

 アサトの隣のジェンスが指をさし、その先には、黒い塊を相手にしている者らの姿が見えた。

 「アサト!」

 ジェンスの言葉に柄に手を当てると、ジェンスが駆け出し始め、アサトも動いた。


 …ってか、なんで?


 とりあえず、弾かれたようにジェンスについて行くアサトの後方では、タイロンの声が聞こえていたが、何を言っているのかは分からなかった。


 振り返らずにジェンスの背中を追う。


 ジェンスが向かっている方向には、確かに大男がデカい剣を振っており、その周りには10を超える黒い塊がうごめいていて、なかには白いマントの者も剣を振っている…2人?3人…、いや、4人だが、1人、黒いのに首を刎ねられた…。とジェンスが立ち止まり下を見た。


 遅れてアサトが着くと下を見る。

 「…なんだ、こいつ?」

 ジェンスの言葉に、目を細めたアサトの目に入って来たのは、おでこに何か小さな文字みたいなのが書かれてあり、その文字は焼き印とは違い窪んでおり、見開いた目は、真っ白で、黒めに当たる部分が濁りを伴った白であった。


 「きゃぁぁぁぁ~」


 女性の悲鳴に2人は顔をあげる。

 大男の後ろには、フードを被った小さな者がついていて、それを庇いながら戦っている大男と、白いマントの兵士が3名…、そして…、大男の足に突き刺さった剣の柄を持っている黒いモノ…。


 「アサト!」

 再び駆け出すジェンスに、弾かれたように追うアサトは鞘から太刀を抜くと、向かった先にいた兵士が、黒いモノの胸に剣を突き立てているのが見えたが…。


 え?……

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