第18話 助けられた『皇女』と助けを望む『王妃』 上

 「…とにかく!私は皇女です。あなたはお母さまの使用人なら、私にも忠誠を誓いなさい!」


 馬の上でセナスティが声をあげ、その言葉に怪訝そうな表情を見せているビッグベア。

 まっすぐな視線は、馬に乗っていないビッグベアと同じ程の高さにあり、その後ろには、太い脚に太い胴体、セナスティの馬の倍はありそうな大きさの馬が立っている。


 聞いた事がある。

 巨大な馬『グラッグホース』は、農耕用の馬を古の民が改良した馬で、野生化した馬種であり、この地方では珍しいが、北の大陸には、もっと巨大な馬が生息し、その馬に乗る騎馬の一団も存在すると…。

 体中を覆っている毛は太くて厚い、冬に強く、夏に弱いとされており、巨大な蹄は熊ほどの大きさを持つと言う…。

 熊……。


 この馬に乗っているのが、熊のイィ・ドゥであり、少しばかり奇妙な組み合わせだ…。


 セナスティの瞳に映る巨大な馬は、首を下げて草を食べており、夕日の色に美しく映し出されている馬体の線が、燃える色の遠い景色とはっきり区別して映し出されていた。


 「その馬は…早いの?」

 巨体に巨大な蹄、そして…、巨大なビッグベアを乗せているのなら…。

 想像が限界を超えた瞬間の言葉である。


 ビッグベアは、セナスティの言葉に、手綱の向こうにある馬の顔を見下ろし、悠々と草を食べている姿を見ると、セナスティへと視線をむけた。

 「でなきゃ、お前を助けられなかっただろう…」

 「…」

 ビッグベアの言葉に頬を赤らめたセナスティは、なぜか胸に手を動かして胸を隠すような動きをとった。


 「そんなに恥ずかしいなら、早く王妃の元に戻ればいい。」

 「戻らない!」

 「…俺は、お前の…」

 「聞いたわ!さっきも!」

 声を荒げるセナスティを、再び怪訝な表情で見る。


 「あなたも…」

 「あ?」

 「あなたも私に…」

 「なんだ?」

 頬を赤らめ視線を外す。


 「…あんな事をしたいと思っているの?」

 セナスティの言葉にため息をつくビッグベア。

 「た…、ため息をつく事は無いでしょ!」

 「あぁ~悪いな皇女さま…。おれはガキには興味は無いんだ!」

 「ガキって!」

 「…とにかく」

 「ちょっと待って!今の言葉は納得がいかない!胸だって人並みだと思うし、顔も…まぁまぁ~だと思う。それに…」

 「それに?」

 「もう…子供も…産めるし…」

 「あぁ~、そうかい。それは立派だね。」

 手にしている手綱を小さく動かすと、巨大な馬は顔を上げて、遠くへと視線を移した。


 「誰を助けたいかわからないが、お前が行くなら…行くしかないだろう…だがな…。お前がどうしようと、あそこからは誰も助けることが出来ない!お前の命が危険になったら、俺はお前を担いででも、その場から逃げる…それでいいか?」

 「行くだけ…って事?」

 「あぁ~、その場所を見て諦めな!まぁ~、諦めもつくと思う…。」


 『エギアバル』監獄は、周囲200メートルを、高さ7メートルのレンガで積まれた壁で囲んでおり、その中央に2階建ての建物があり、地下は4階まであるようだ。

 壁入り口には、2つの検疫所が設けられ、そこを出ると、高さ7メートルの有刺鉄線が、隙間なく張り巡らされている道を、50メートルほど進んで建物へと入る。


 建物の中は、ビッグベアには分からないと言う事であったが、建物裏には、処刑場があり、斬首や吊るし首を行う施設が用意されているとの事で、その向こうは、高さ100メートル以上ある断崖絶壁が下へと延び、その下は海となっている。


 処刑された者は、海に投げ捨てられるとの事だが、現在はどういう状況かは分からなく、建物前方の広場は運動場であるが、そこに魔物が雑魚寝をしていると言う事を城で聞いたと言う事であり、常駐している衛兵の数は100人程ではないかと言う事であった。


 「そういうところだ。地下には極悪人がうごめいている。話によると監獄長の部屋に、幽閉ドアの開け閉めが出来るものがあると言う話だが、それは憶測でしかない。が出てきたら、さすがの俺も逃げる。あいつがどこに居るかはわからないから、中には入らない」


 「ところで、さっきもナンバー4って言ってたけど…」

 「あぁ~、奴は処刑人と言う役職の者であり、凶悪なマモノだ。話を聞いたが、どうやらそいつの親父って言うのが、昔、『鬼殺し』って言われていたオークで、母親がオーガのようだ。」

 「鬼殺しって…聞いた事ある。乳母のおとぎ話で…」

 「あぁ~、なら姫さんは、とんでもないお転婆だったんだな」

 ビッグベアの言葉に頬を赤らめたセナスティは、鬼殺しの話しをする乳母は、いつも悪戯を見つけた後に、話していた事を思い出した。

 『言う事を聞かない子には、夜、鬼殺しがやって来るぞ…』と…。


 「軍事大臣が、昔、交配をさせて手なずけた種類の1人みたいだがな…」

 「大臣が?」

 「あぁ、詳しい事は、他の奴に訊け!」

 ビッグベアの言葉に、目を鋭くしたセナスティ。


 「とにかく、入らなければ助けられないじゃない!」

 「だから教えただろう!無理だって!」

 「…」

 暮れゆく夕日を見ているセナスティの表情をみるビッグベア。

 「とにかく…おれは王妃の命令で、お前を無事に王妃の元に連れて行く。」

 「…わかったは…。それで…見るだけでも…いい…」

 セナスティの言葉に、小さくため息をつくと、巨大な馬を引き連れて辺りを足で払い始めた。


 「…なにをしているの?」

 ビッグベアの行動に目を丸くして訊く。

 「こうすれば、痕跡は残らない…姫は、ココでにする!」

 しばらく足で痕跡を消したビッグベアは、馬を連れて森の中へと進み、草が生い茂るところまで来ると馬に乗り、ついて来ているセナスティを見るとゆっくりと進み出した。


 小さな道に出るまではシダの藪を通る。

 「俺の馬について来い。」

 「走ったほうが…」

 「いや…道に出るまでは歩かせる…こいつは走るのが好きではない。それに…森に馬が逃げたと思わせたい…」

 「あなたの馬が?」

 「…まぁ~、これを見た奴らがどう思うかわからないが…。」

 ビッグベアの馬を先頭にセナスティが続き、森の奥に進む影はうっすらと姿を消し始めた…。



『王都より離れていない場所の林』


 焚火を囲んでいる者らが4人、エールを飲み交わしていた。

 夕日が落ちてすでに辺りは暗くなり始め、林の中では、四つん這いになっている女性に、男が後ろからイチモツを挿入し、何度も何度も動かす腰に、女性は小さな喘ぎ声をあげている姿が見えていた。


 「王妃とやれるだなんて…主さまも家臣思いな漢だな!」

 エールを飲んでいた男が立ちあがり、行為を行っている林へと視線を移した。

 林には、散らばっている女性用のドレスがあり、そのドレスの向こうでは王妃が涙を流し、唇を噛みしめている姿があり、細い王妃の体が、遠くの焚火に淡く照らされてなまめかしい色を見せていた。


 立ち上がった男は股間に手を入れ、イチモツをシゴキ始めた。

 「おいおい…またやるのか?」

 「はははは…今夜は王妃様の中にたくさん出させてもらい…明日は、王妃様の首を持って行き、財布に沢山入れさせてもらう!」

 高々に笑った男は、林へと進み始めた…。


 それは…、今から2時間ほど前の出来事である。

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