第17話 美女とマモノ 上

 テントの外を見たダーレインには、焚き火を囲んでいる4人の仲間がニヤニヤしている姿と、その後方の暗闇に浮かび上がった影が見え、影を確認するように目を凝らして見ると、ゆっくり近づいてくる影が焚き火に映し出された。

 その影は、身長2メートル以上はあると思われる熊…のイィ・ドゥの姿であり、そのイィ・ドゥは、大きく重そうな両刃長剣を手にしており、目を見開いたダーレインの表情に振り返った仲間は、目の前に立ち始めた熊のイィ・ドゥの体を見てから、視線を上げて顔を見上げた。


 冷ややかに見ているイィ・ドゥは、男たちを見てからテントのダーレイン、そして…、横になり胸をさらけ出している女性を見た。

 その女性の姿は……。


 「ビ…ビックベア…」

 目の前にいる男が声を上げた瞬間に、手にしていた両刃長剣を水平に振り抜くと、肉と骨を断つ音に、少し遅れて血が吹き上がる音が辺りへと流れ、その瞬間を見ていたダーレインは、セナスティから離れてテントから出た。


 3人の首が一瞬で飛び、無造作に倒れている間に、ビッグベアは、もう一人の男を頭から体半分を切り裂き、足蹴りをして両刃長剣から外すと、大きく息を吐き捨てて、テントから出て来たダーレインの姿を、目に捉えながら歩み出した。


 「これは…ドミニク公の指示だ…お前は」

 腰を抜かしたダーレインは、近づいてくるビッグベアに言葉を投げた。

 「俺はで動いている。ドミニク公は、すでに俺の主ではない!」

 ダーレインを見下ろす格好となったビッグベアは、手にしている両刃長剣を高々に上げ、勢いをつけて振り降ろすと同時に、風を切るような大きく小気味いい音と共にダーレインの首が転がり、体から噴き出した血が辺りを染めた。


 驚きの表情で見ているセナスティの瞳には、いままで自分の胸をむさぼっていた男の姿が、夢でも見ているかのような、現実とは思えない状況で映っていた。


 ビッグベアは振り返り、テントの中にいるセナスティを見る為に膝を曲げ、身を屈めた。

 巨大な体が目の前に降りてくるのを、セナスティは確認すると、はだけられた胸を隠してテントの奥へと後退を始め、テントの端につき、入り口にしゃがんでいるビッグベアを見ると、瞳を強く閉じた。

 瞳はかすかに震え、また、胸を覆い隠している腕も小刻みに震えている。


 セナスティの姿を見たビッグベアは、鼻を鳴らしてテントの中に入って来ると、脇に寄せられていた外套を手にしてセナスティへと放り投げ、その場を後にした。


 …ダーレインの次に…。


 ダーレインを殺して、この熊のイィ・ドゥが、自分の体にのしかかってくると思っていたセナスティは、膝に当たる外套の感覚に恐る恐る目を開けると、背中を向けて進み出しているビッグベアの姿が見え、外套を手にして、あらわになった胸を破かれた服でかろうじて隠すと、外套を肩から掛けて胸の所で握り、視線をすぐにビッグベアへと移した。


 ビッグベアは、焚き火の周りに転がっている遺体を掴むと放り投げ、切断された首を持ち上げて少し見ると、鼻を鳴らして森の暗闇へと放り投げた。

 血で汚れているが、遺体の無くなった焚き火の周りで腰を降ろしたビッグベアは、先ほどまで、その場で飲み食いしていた者らの周辺にある、エールの入っている袋を手にして飲み始め、焚き火の周りに串で刺している肉へと手を伸ばして掴むと、目の前に持ってきて焼き加減を確認してから、一度、テントの奥にいるセナスティを見た。


 その視線に体を硬直させたセナスティ。

 そのセナスティを見たビッグベアは、鼻を鳴らしてから串に付いている肉を頬張り始め、肉を食べ終わると串を背後へと放り投げ、歯と歯の間に挟まった肉が気になるのか、小指で器用に歯と歯の間に挟まっている肉を取りながら、再びセナスティを見ると、エールの袋へ口をつけて、袋の中に入っているエールを飲み干して後方へと放り投げた。


 焚き火の周りにある肉はまだあり、エールの入っている袋もまだある。


 確認したビッグベアは、少し離れた場所にあるエールを取ろうと小さく体を浮かすと、テントの中のセナスティが小さく反応をし、その動きに中腰の状態でテントを見ると、小さくため息をついてエールの袋を掴み腰を降ろし、中身の多さに満足の表情を見せてセナスティを見た。


 「…こっちに来い。肉が焼けている」

 ビッグベアの言葉に息を呑むセナスティ。

 その表情を見ながら、エールの袋の口を開けて飲み始め、半分ほど飲むとエールを傍に置いて串に手をかける。


 「なにもしない、おまえのかあさんに頼まれた。」

 ビッグベアは、串を手に取ると口元まで持って来る。

 「とにかく…こっち来い。そんなに遠ければ守れない」

 ビッグベアの言葉に目を細めたセナスティ。


 「お母さまに頼まれたって…本当ですか?」

 「本当も何も、おまえを連れてきてくれと頼まれた。…誰も信用できないような表情だったな……。ドミニクの傍にいた俺を、その場で買い、そして、その場で俺にお前を連れてきてくれと頼まれた。もし、ドミニクが何かを企んでいても、あの状況なら俺に何かをさせる事は出来なかったし……」

 肉を頬張ると、テントの入り口近くに転がっているダーレインの頭を見た。


 「…おまえを襲った奴は、ドミニクが何かを頼んだのかもな…。そいつにドミニクが紙を渡すところを見た。」

 「……」

 テントの中でビッグベアを見ているセナスティ。

 未だに警戒は解かないが、どうビッグベアの言葉を信じようかと考えを巡らかしてもいた。


 確かに、このビッグベアに助けてもらった。

 16歳の彼女は、まだ男を知らないが、男の怖さや欲求は知っている。

 体が女性になるにつれて、周りの彼女を見る視線は、子供を見る目から女を見るような、ねっとりとしたイヤらしい視線になり、諸侯の同じ歳くらいの男の子や少し上の男の子も、自分の事を猛烈にアピールしてくる、それは、権力や地位が欲しいのと、セナスティの体を舐め、吸い、そして、この口に男の象徴を銜えさせ、快楽を得たい、また、股間にある、いまだに男をしらない恥じらいの場所に、その象徴を入れて腰を振り、中に出したい…そう思っている。


 セナスティは女の子から女性になり、中に出されたモノは、いつしか形になる事も知っている。

 その事は、小さな頃に乳母に聞き、女性になった日に母に聞いた。

 それが女性であり、それが…仕事…。

 それが……。


 「俺は寝る!おまえは好きにしろ。そこで寝てもいい、腹が減ったら肉を食えばいい。何かあっても俺がいるから、ゆっくり寝て、明日…おまえのかあさんの所に連れて行ってやる!」


 ビッグベアの言葉に身を小さく乗り出したセナスティ。

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