選択をする予知 下

 宴が終わり、宿舎に戻ったアサトら一行は、女性陣は1部屋、アサトとジェンスで1部屋、クラウトが1部屋でタイロンは馬車で寝る事になった。


 …まぁ~、ジャンボさんの場合は…あれだから……。


 アサトは、小さな篝火がたかれている庭で空を見ていた。

 新月を抜けた月が、薄い月の弧を見せ始めており、空には多くの星たちが確認出来ている。


 …選択とは何だろう……。


 ぼんやりと見える薄い月に、ロスの言葉を思い出していた。

 雪の中で選択をし、その選択次第で未来が決まる。

 彼女に見えた普遍的な未来とは、アサトだけが選択するのではなく、選択を迫り、選択次第で決まる未来であり、幾通りもあると言う事なのであろう…、そして、その先には…。

 雪とは…冬なのだろう…、でも、遠い未来と言う事だが……。


 篝火の炎を見ていると、胸騒ぎが体の奥から湧き上がって来た。


 …なんだろう……この胸騒ぎは……。


 「眠れないの?」

 言葉に振り返ったアサトの後ろには、薄い寝着に一つに束ねた金色の髪、そして、優しい笑みの下には、大きな胸の膨らみがあり、寝着でわからないが、くびれていると思われる腰に張りのある尻のラインが、篝火のかすかな光に映し出されているアリッサが立っていた。


 アサトは、アリッサの姿に小さな笑みを見せて、彼女の体に対しての反応をごまかした。

 システィナとは違う、女性の雰囲気に飲み込まれそうである。

 「…少し…。選択を考えていたら…」

 「あの子が予知の巫女って事は、彼らは知っていても、私たちにはわからない…深い意味があるのかもしれないし、ないのかもしれない…」

 アサトの傍にすわるアリッサは庭を見る。


 「でも、これだけははっきり言える。」

 「え?」

 「あなたが選択したら、私は…その選択を指示する。」

 アリッサの言葉にうつむいた。


 …間違った選択であっても、なのか…


 「間違った選択なら…。」

 「間違ったか…そうね、間違いはあるは…、人だもん、でも、あなたは違う。間違っていたとしてもクラウトがいる。それに…あなたは選択をする時に状況を見て、気持ちに語り掛け、そして…選択していると私は思う」

 「…なんで、そう言えるんですか?」

 「…『パインシュタイン』で戦った時…、あなたは…、どう感じたのかはわからないけど、あなたの中で、私やケイティ…そして、捕らわれている人達を助けたいって純粋に思い、行動したと思っている。あの状況で、やろうってなんてだれも思わない…それに、あの時は、クラウトやジャンボ、シスを信じていたからだと私は思っている…」


 …そうなんだろうか…。


 あの時は、助けたいと思った。

 だから…行動したのは間違いではない。

 冷静に考えれば、あの戦いは、バカな行動で、結果成功した…狩れなかったけど…。

 でも…クラウトやタイロン、システィナを信じていたのだろうか…。

 あの時に戻って見なければわからない…。


 「衝動的…だったのかも…。」

 「そうかも、でも、それはあなたをリーダーと思っている人たちがいたから、だから、わたしも一緒に行きたいと思った…。」

 「リーダーですか…」

 「ジャンボが言っているように、あなたは他のリーダー達とは違うわ」

 「違う…って、リーダーぽく無いって事ですか?」

 「そうね…だから、周りがしっかり支えている。みんなが思っている通りよ。わたしも…」

 「不安にならないですか?」

 「不安?…そうね…。これからどうなるかは不安だけど…でも、楽しいわよ、こういうパーティーも」

 大きな笑みを見せたアリッサ。


 アリッサの言葉は、アサトを安心させる言葉では無いが、心を休めさせる言葉であった。

 「…アブスゲルグに行けるかどうかは分からないですけど…」

 「行けなくてもいいとみんなは思っていると思うわ」

 「え?」

 アリッサはアサトを見た。


 「…結果は結果よ。何が大事かって言うと、それを目指しただと思う。そこに辿り着くまでに、多くの問題や出来事を体験する…。アブスゲルグでクレアシアンと戦えると言っていた武器を、アサトが持っていた…でも、それはジェンスがトップを奪う前の話し。あの傷は、妖刀ではない、太刀で傷つけた…。そして、アブスゲルグには、私たち以外も目指している…」

 「あっ、…グンガさん…」

 アサトの言葉に小さく笑ったアリッサ。


 「あの人たちは、ほんとに面白い人達だった…、ケイティもね…。そう、グンガさんのチームや、パイオニア、エンパイアのチーム…ほかのギルドや、腕試しや帰還を願う人たちが目指しているのかも」

 「ギルド会館で情報を提供してますからね…」

 「うん。だから…私たちが行けなくても、オーブのコアを、この世界に持って帰って来てくれるチームがあるかも知れないから…」

 アリッサの言葉に空を見上げたアサト。


 「…行こうって言う時に…アブスゲルグがあるか…」

 「え?」

 空を見ているアサトを、小さく驚いた表情で見たアリッサへ、空から視線を移した。


 「ジャンボさんの言葉思い出しました。」

 「あぁ~、オレンさんに言った言葉ね…」

 「はい」

 「そうね…私たちが各々力をつけ、じゃ~行こうかって時にアブスゲルグがある…そうね。そう言うのでいいんじゃない」

 「…はい」

 「だから…、いろんなことに惑わされないで、悩んだら仲間がいる。話して…クラウトみたいには言えないけど…」

 「そんなことないです。」

 「頼りないけど、仲間は一つになれば強くなる。ロスさんが言った言葉は、予知かも知れないけど、それはそれ、アサトや…私たちは、その時を生きていればいい…。選択の時は、いつか来る。それは、その時に考えればいい…。私は…あなたと共に進むから…」

 「…でも…、ダメな時は、それはダメだって言ってもらわないと…」

 アサトが言うと、小さく笑みを見せたアリッサ。

 「そうね…人として、それはどうなんだって時には…」

 「クラウトさんが止めますか…」

 「うん。クラウトが早いと思う」


 メガネのブリッジを、上げるような仕草を見せたアリッサの姿を見たアサトが、小さく噴き出す。

 「アリッサさんも真似するんですね…」

 「そうね…ケイティはいつもやっているよ、クラウトやアルさん…それに…アサトのマネもね」

 「え?僕のマネ?」

 「そう…ははははは」

 返事をすると小さく腹を抱えながら笑い始めた。


 「え?アリッサさん、ケイティはどういうマネするんですか?…え?えぇ~教えてくださいよぉ~~」


 宿屋の庭にアサトの嘆願する声と、笑うアリッサの声が小さく響いていた……。



 翌日。


 どうもマネをしている姿が見たいアサトは、ちらちらとケイティを見てしまう。

 朝食を食べ部屋に戻り、身支度をして…部屋を出る。

 玄関にいるシスティナにセラ、そして、笑みを見せているアリッサに、何かを銜えているケイティ…ってか、キャラだと思うけど…。


 宿舎を出たアサトら一行は、ミュムの屋敷へあいさつに向かうが、どうしても…ケイティが気になる…と。

 前を歩いていたケイティが振り返った。

 「……ったく、朝からなんなの?人の事ばっか見て!」

 ご乱心モードに突入!


 「あぁ?なに?なに?なんか言いたい訳?え?」

 「いやぁ~~」

 「いやぁ~~、ぼくわぁ~~、クラウトさんに任せますぅ~、アルさん……って、朝からヘタレモードになってんなよ!」


 …え?…それって……。


 アリッサを見ると小さく口を押さえて笑っている、と言うか、システィナとセラは大きな声で笑い始めた…。


 …今のが?ってかヘタレって……。


 ケイティは、ポケットからつぶれた紙を出し、その中からふゃふゃになったキャラを出してアサトへと向けた。

 「かわいそうだから一つやるよ。ヘタレ君!」


 …って…。


 そのキャラを受け取ったアサトは、キャラを口に入れ、その姿をみたケイティは大きく笑みを見せて、「それでよぉ~し!」


 …って、いいのこれで……。

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