強いモノの『義務』 下

 お昼過ぎには『ミュム』の街に着いた。


 『ミュム』の街は、2メートルほどのレンガの壁で覆われ、3階建ての建物が軒を連ねており、作りも木造が主で、ガラスの窓は無く、障子と言う白い紙をはった引き戸があり、格子状の木が窓に見え、屋根は黒っぽい瓦が敷き詰められている、なんとなく懐かしい感じの作りのする建物が多かった。

 住人達も穏やかな表情であり、ゆっくり時間が流れているような感覚にとらわれた。


 …これって、なんか知っているような……。


 彼らの帰宅がいつになるかわからないので、とりあえず、街の宿屋へ部屋を取り、街にある入浴施設に案内をされ、風呂に入った一行は、そのお湯が、ただのお湯とは違う、少しだけピリピリとした刺激だが、肌触りが滑らかで、心地いい硫黄の匂いが少しだけするだと分かった。

 温泉と分かった女性陣は大喜びであり、木の壁の向こうで姫がご満悦の声を上げ、なにやらイヤラしい事をいっている…。


 システィナの胸がどうの…、アリッサの胸がどうの…セラの…って、そこではテンションが小さくなっていたが…。


 男性陣は、聞きたくも無いのに入って来る言葉に、想像を膨らましていたが、クラウトだけは冷静であった…。


 …ホンとそうなのかなぁ~。…と言うか…風呂って何日ぶりだ?


 クラウトの話しだと、オースティア大陸では、風呂に入る事は考えない方が良いと言う事である。

 セラがいるからとは、決して口にはしなかったが、セラは、その事を分かっているような表情を見せながら小さく俯いていた。


 風呂を上がった一同は、ケイティの意味ありげな表情に困惑をしていたが、ジェンスだけは、ケイティの手を掴んで匂いを嗅いでいる。


 …なんで?…まぁ~何となく想像はつくけど……。


 その後、街を案内してもらった。


 観光地とは言わないが、それなりに人の往来があり、近くの村などから買い物や商売の取り引きにきていると言う事である。


 この街の名産は、装備品と薬品と言う事である。

 装備品は、王都の有名な武器防具職人が、人間至上主義の声が上がって間もなく、王都を出て来たところを『ミュム』が救い、この街で仕事を始めたようで、種族はドワーフのモノを中心とした者らみたいだ。


 薬品は、エルフの民が作っているようで、この地方にもエルフ族の者がいるとの事であり、近くにある精霊の森の出身者のようで、精霊の森には、妖精の村やエルフの村が点在し、薬草を育て、薬を作っており、また、ルヘルムから、薬を作るギルドに所属している、と言うものが時折りやって来ては、ココで薬を作る材料を購入しているそうだ。

 ギルドが所在する場所は…かなり南にある街と言っていたが…。


 なんとなく分かったと言うか、『ファンタスティックシティ』である…。


 セラとケイティは食べ物に夢中になり、タイロンとジェンスは鍛冶屋を見て、クラウトは書物屋を見ている。

 アリッサとシスティナは食材の店を、なにやら楽しげに話しながら見ていた。


 アサトは…、仲間の動向を笑みを浮かべながら見ていた…。


 一通り街を見た一行は、タイロンとジェンスは馬車の整備にむかい、アリッサとシスティナは食材を馬車に運んでいたが、また、買い物をするようである…。

 アサトはセラとケイティに連れられて、街の中にある広場で昼寝を始め、その傍でクラウトは本を読んでいる。


 クラウトの話しだと、その本は、誘われた人が書いた本で、クラウトも読めるようだ。

 出所は王都で、どうやら海を渡った話のようであり、この本を読んでなにか参考にならないかと思っていると言っていた。


 夕方になると、ミュムらが帰って来た連絡があり、宴の用意が出来たら呼びに来るとの事だったが、胸を強調させた姿のコウレナと、細長い棒を手にしているロジアンが現れ、少しばかり相手をすると言う事である。


 彼らの話しをアサトとクラウト、アリッサが聞く。


 彼らは戦場に着くと、遺体はいまだに放置されていたが、互いの種族の者らが協力し合って、遺体を回収していたと言う話であった。

 ミュム達も遺体の回収を手伝ったそうだが、ミュムが彼らに頭を下げて事の経緯を話し、少し誤解があって危険な状態にもなったが、うまく事を収めて作業を手伝ったそうである。


 翌日も向かうとの事であり、平原の遺体回収が済むまで毎日足を運ぶそうであった。

 遺体を回収している時に、すぐに手当てをすれば、今も生きていた者達も少なくは無かったと言う話を聞いたようであり、そのおかげで、命の重さを黄鬼と青鬼は感じたと言っていた。


 ロジアンの話しは続く…。

 この地方で巻き起こっている人間至上主義の話しである。


 昨日、この街に一羽の使いガラスが舞い降り、王都からの伝達文が届いたそうである。

 現在、この国を治めているのがセルゼットと言う軍事大臣であり、王が逝去をしたのちにクーデターを起こしたそうである。

 皇太子は捕らわれ、皇女と王妃は行方不明のようであり、両名の捕獲依頼が国家的依頼として発動をされ、生きて確保が絶対条件で、皇女と王妃を捉え次第、女系皇族の継承に対して、賛成票をあげた大臣と摂政4名を含む、7名の処刑を終えたのちに、新国王として即位をするとの事、また、人間至上主義の圧力を強める為にも、閣僚級だった人間族以外の者らの処刑も、時を見計らって行うとの事である。


 その言葉にクラウトは目を細めていた。


 また、容姿が似ているエルフとドワーフは、人間に従事する事で刑を免れる事ができるそうである、いわば…奴隷である。

 また、イィ・ドゥに関しても同じであり、獣人の亜人らは排除の部類に入るようだ。


 税収は、王都への入出に際し、金貨1枚であり、商・工業税は、月金貨50枚で、住民税は、一人当たり月銀貨30枚。

 家を持たぬ者は、強制的に王都より追放をする。


 近辺の街は、独自の徴収方法をとり、王への税は、街の住民1人当たり、月銀貨20枚で計算をし、村などは、住民1人当たり、月銀貨10枚、商・工業税は、街、村問わずに月金貨40枚で、王都へと納付をする事にするようだ。


 港に関しても、出入国の際に金貨10枚を支払わなければならないようであり、密入出国をした者は、処刑とすると言う事である…。

 その他にも、国の治安維持の為に『ギルド』は、承認制とするようであり、月金貨100枚を納付して、運営をしなければならないようである。


 「誰の為の税収であり…、誰の為の政策なんだ…」

 クラウトがメガネのブリッジを上げ、眉間に皺を寄せていた。

 ロジアンは、親切にアサトらへ教えてくれたのには、訳があるようだ。


 彼は、アサトに訊いた「君たちは、?」と…。


 その意味は……。

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